(ブルームバーグ):日本で賃金上昇の流れが定着するかどうかは、石破茂政権の存続とともに、日本銀行による追加利上げ判断の鍵となりそうだ。
賃金の上昇基調を確実なものにする上で、2025年の春闘は重要な役割を担うとともに、賃上げの持続性を測る手掛かりとなるだろう。
日本最大の労働組合の全国組織である連合は、来年も今年と同じ5%以上の賃上げを要求すると報じられたが、少なくとも賃上げ圧力は今年同様に強いことを示唆している。24年春闘の平均賃上げ率は33年ぶりの高水準の5.10%を記録した。

もっとも、こうした高水準の賃上げが国内の労働者全体に行き渡ったわけではない。名目賃金(現金給与総額)の前年比伸び率は今年1-8月平均で2.3%と、物価の上昇に追いついていない状態が続いている。
物価高による家計の痛みは、岸田文雄前政権の支持率低下の一因となり、退陣へとつながった。総選挙を控える石破首相にとって、賃金上昇とインフレへの対応は求心力を高めるためにも極めて重要だ。
賃金の動向については、追加利上げに向けて賃金と物価の好循環の高まりを示すさらなる証拠を得ようと日銀も注視している。
25年の賃上げ交渉に向けた主要イベントのタイムラインは以下の通り:
10月18日:連合「基本構想」
連合は例年、10月中旬に翌年の春闘に向けた「基本構想」を公表する。今年は10月18日の予定で、ここには賃上げの全体目標などが盛り込まれている。NHKの報道によると、25年春闘も今年と同じ平均賃上げ率「5%以上」で、ベースアップ相当分については3%以上の目標を設定する見通し。
11月ごろ:経済対策
石破首相は今月4日、賃上げ支援などを盛り込んだ総合経済対策の策定を閣僚に指示した。岸田前首相も昨年11月に総額17兆円余りの総合経済対策を発表。中小企業や介護職の賃上げ支援やエネルギー価格負担軽減策の延長、税額控除などが盛り込まれたが、経済対策への国民の反応は冷ややかで、岸田氏の支持率にも影響を与えた。
石破氏が提示する経済対策に目新しさがなければ、岸田氏と同じ道を歩む可能性がある。
10-1月:大手企業の賃上げ方針
大手企業は早ければ10月にも賃上げの方針を公表し始め、来年の動向を占う手掛かりとなる。
昨年は11月に、明治安田生命保険と第一生命ホールディングスが7%程度の賃上げ方針を固めたと報じられた。12月にはイオンがパート時給を引き上げる方針を固めたと報じられたほか、野村ホールディングスは1月に、傘下の野村証券で入社3年目までの若手社員に対して賃上げを行う意向を明らかにした。
12月初旬:連合「闘争方針」
連合は昨年、12月1日に24年春闘の「闘争方針」を決定した。ここでは賃上げの数値目標や交渉戦略だけでなく、勤続年数や男女間の賃金格差是正などさまざまな労働問題に取り組む方針が示されている。その後は数カ月の間に政府と経済界、労働団体の3者による政労使会議が開かれ、賃上げ機運が醸成される。
2月:大手企業の賃金交渉
大手企業の中には、賃金交渉がピークを迎える3月を待たずに労組側と妥結するケースもあり、全体の傾向を知る手掛かりとなる。24年春闘では外食大手のすかいらーくホールディングスが2月に6%余りの賃上げ実施で労組側と合意。ホンダやマツダも2月中に満額回答を出した。
3月初旬:春闘「賃上げ要求」
連合は3月初旬に加盟組合の賃上げ要求をまとめる見通し。今年の報告では、3102組合が平均5.85%の賃上げを要求し、30年ぶりに5%を超えた。
3月中旬:第1回回答集計
連合は3月中旬に春闘の第1回回答集計を公表する。今年は3月15日に発表され、771組合の平均で5.28%の賃上げが確認された。この結果は日銀が17年ぶりに実施した利上げの判断にも影響を与えた。連合は夏場にかけて集計値を更新するが、回答数が増えるにつれて賃上げ率は低下する傾向にある。
4月:中小企業
4月の回答集計は、中小企業やパートタイム労働者らの結果が反映され始めるため、より広範な賃金動向を示す重要な指標となる。今年の第1回集計は労働者300人未満の中小組合が358組合だったのに対し、4月18日までには2000余りの組合が結果を報告した。
国内労働者の約3分の2は従業員1000人未満の企業で働いている。4月の集計では契約社員とパートタイム、派遣労働者が国内労働者の約37%を占めた。
7月:最終集計
連合は例年7月に最終集計結果を発表する。24年の平均賃上げ率は5.10%だった。賃上げの多くは5月の給与から反映され始める。日銀によれば、春闘の結果は8月中旬までに80%超の企業で給与に反映される。
8月:最低賃金
政府は例年8月に各都道府県の最低賃金の改定を取りまとめる。石破首相は最低賃金を2020年代に全国平均1500円への引き上げを目指すと表明し、前内閣が目標としていた30年代半ばから前倒しした。これは年間の賃上げ率からみて実現不可能と思われるようなペースだが、最低賃金の引き上げは賃金全体を押し上げるもう一つの潜在的な要因となり得る。
原題:Japan’s Wage Deal Timeline May Shape BOJ View on Next Rate Hike(抜粋)
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