米共和党大統領候補のトランプ前大統領が掲げる関税引き上げの公約で、通常なら売り圧力が高まる銘柄が予想外に堅調な値動きを見せている。

黄色と緑のトラクターや芝刈り機を製造する農機メーカー最大手のディア。米中西部を象徴する存在とも言える同社に対して、トランプ氏は2週間前、コスト削減のため生産拠点の一部をメキシコに移管すれば、高い関税を課す構えを示した。

トランプ氏は9月23日、ペンシルベニア州西部で行われた農家を前にしたイベントで「もし実行するなら、米国で売りたいものすべてに200%の関税を課す」と表明。背後には、ディアの農機が置かれていた。

トランプ政権下で関税に関して堂々巡りの議論が交わされるのを目にしてきた株式トレーダーにとって、これはおなじみとも言える光景だ。変わったのは、むしろ関税リスクに対する株式市場の反応であり、より正確に言うなら反応しなくなったことだ。パニックに陥ることもなく、ディア株が反射的に売られることもなかった。むしろ株価は上昇基調を続け、52週高値でその週を終えた。

ディア株価はその後、高値水準から押し戻された。業界全般の需要低迷、大型農機の値崩れ、港湾労働者のストライキなど、ディアが直面する一連の無関係な問題がその要因だ。だが、一段と幅広い視点に立つと、関税の脅しを見越し、政治的なレトリックと現実に起きることを切り離そうとしている投資家の姿が浮かび上がる。

バーンセン・グループのデービッド・バーンセン最高投資責任者(CIO)は「発動されなかった関税が市場に打撃を与えることは非常に難しい」と指摘。「トランプ氏自身も、関税は交渉戦術だと述べている」と話した。

今回の米大統領選で関税がウォール街の大きな懸念であるにもかかわらず、貿易摩擦が起きると通常なら苦戦する銘柄やセクターが健闘しているのはそのためかもしれない。トランプ氏の関税計画によって打撃を受けるとみられる企業の株価に連動するUBSの株式バスケットは、過去3月間に7.8%値上がりしており、上昇率はS&P500種株価指数の3%の倍以上だ。ディア同様、貿易摩擦で犠牲となることが多い鉱業・建設機械大手キャタピラーの株価もここ1カ月上昇し、7日には最高値をつけた。

とはいえ、トランプ氏はすべての輸入品に10-20%、中国製品には60%の課税を提案。メキシコで製造された自動車や、脱ドル化を進める国・地域の製品にも高水準の関税を課す考えを示しており、株式市場に壊滅的な影響を与える恐れがある。

UBSでは「一律の関税発動により、米国株が10%下落する可能性がある」と分析。米経済を累積で1-1.5%下押しするほか、S&P500種構成企業の利益は1桁半ばの落ち込みとなり、株価が下落すると予想している。

原題:Deere, Caterpillar Investors Shrug Off Trump Tariff Threats(抜粋)

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