空手の昇段試験に挑んだある男性。男性にはどうしても挑戦しなくてはならない理由がありました。 

一心不乱に稽古に打ち込むのは、山崎芳徳(やまさき よしのり)さん63歳。山崎さんが空手を始めたのは40歳の時です。


極真空手熊本支部の後援会長だった父親が病に倒れたことがきっかけでした。


山崎 芳徳さん
「親孝行全然してなかったので、親孝行して、父親の前で昇段試験を受けたいなと思って」

49歳の時、初段に合格。そして、63歳になった2022年、師匠と仰ぐ友人の誘いもあり二段の昇段試験を目指すことになりました。

山崎さんは、熊本市で歯科医院を開いています。


ただ、1日に多くの患者を診ることはできません。

山崎さん
「あ~疲れた…薬の副作用が強い時は、ほとんど仕事ができなかったですよ」


実は山崎さん、55歳の時に慢性白血病を発症。追い打ちをかけるように2022年6月、医師から「大腸がん」であることを告げられ大腸の右半分を摘出、満身創痍です。

ただ、この大病の経験から山崎さんには熱い思いがこみ上げました。

山崎さん
「やって後悔することもあるけど、あー、やらんかったよねって後悔する方が
きついというか、後悔が強いと思ったんで。今やれることはしようかなって」


昇段試験まで残り8日、最後の追い込みというこの日の稽古は、闘病中とは思えない激しいものでした。

山崎さん
「知り合いの医師からはやめときって言われて。やめるのは師範が危ないけんやめるって言えばやめるけん。いけるところまでやります。」


今回 一緒に昇段試験を受ける友人は…

平井 浩一郎さん
「立派だなと思うよね。普通だったらできないよね、白血病になってね」


山崎さん
「1人では絶対しないし。皆さんこうやってわざわざ来てくれるんですよ、こんな良い仲間っていないじゃないですか。出し切って倒れる、それが恩返しかなって」


試験前日。道場を離れると不安がこみ上げてきます。


山崎さん
「怖いですよね、怖い。明日は苦しいだろうなとか痛いだろうなとか。だけどやっぱりこういうチャンスを与えてくれたことはすごくありがたいと。それに応えないといけないなと」

昇段試験当日、主治医も同行し万全の態勢で山崎さんの挑戦を見守ります。


通常、昇段試験は10人と組み手を行うことになっていますが、山崎さんが挑むのは20人組み手。あえて自分を厳しい状況に追い込みます。


山崎さん合格基準の10人をクリアしました!ここからは自分の体力・気力との勝負です。


そして迎えた20人目。最後の相手はこれまで稽古を見守ってくれていた道場の代表です。


見事20人組み手を達成しました。


平井さん
「おめでとう。素晴らしかった最後まで。ばっちし。素晴らしい組み手だった」


山崎さん
「いろんな人たちに感謝しかない。本当に感謝しかない。ありえんことをできたけん、本当にありがたい」



病気と闘いながら命懸けで臨んだ昇段試験。63歳の山崎さんの挑戦はまだまだ続きます。

山崎さん
「機会があればまた三段とか、今は思いもしないけど、もし許可が出ればチャンスがあればそれに向かっていこうかな」