◆「規律」は日本が誇るコンテンツ

外国人は、自分たちの社会と違うシステムをよく観察している。例えば、日本人にとっては当たり前の「車道ではきちんと横断歩道を渡る」「混み合っているファストフード店では列をつくる」、「小さなゴミでも捨てない」といったことだ。

コロナ禍で、旅行客の往来がずっと制限されてきた。それがほぼなくなった。そして、ちょうど観光シーズンを迎えた。海外からのインバウンドというと、どうしても「お金を落としてもらう相手」ということに、考えが行ってしまうような気がするが、「規律」という、日本が誇るコンテンツを示すいい機会ととらえたい。

もちろん、中国にも規律はある。しかし、多くが「強制された規律」「創られた規律」だ。ルール、約束事を自然に果たすことができる日本社会は、お手本でもある。

◆悪意のない「マナー違反」にはお手本となる振る舞いを

インバウンドが日本に来てくれるのはいいが、一方で、殺到する観光客が環境を乱す「オーバーツーリズム(観光公害)」を懸念する声もある。ただ、別府の温泉で見たように、外国人たちは私たち日本に住む者の振る舞いをウオッチしながら「じゃあ、ここではどうしたらいいの?」と参考にしている。

文化・習慣は国によって異なる。インバウンドの訪日は、それを理解し合える場ととらえられないだろうか。旅行から帰ってきた翌日(10月2日)、朝日新聞の社説が、オーバーツーリズムを取り上げ、こんな提言をしていた。

“訪日客の「マナー違反」には、文化や習慣の違いに基づく悪意のない行為もある。京都市などは挿絵(さしえ)入りの看板や、多言語のデジタル掲示板を使った対策に取り組む。国も空港での呼びかけや観光業者を通じた周知など知恵を絞ってほしい。”

「文化や習慣の違いに基づく悪意のない行為」。私もそう信じたい。中国での日本パッシングの報道も徐々にだが、鎮静化している。中国の庶民は、冷静なのだろう。だからこそ、私たちは「見られている」ことに敏感でいたい。


◎飯田和郎(いいだ・かずお)


1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。