路線価上昇の背景と相続税への影響
路線価が最も高かった都道府県は東京で、沖縄、福岡と続くのですが、共通するのはインバウンドや外資の影響です。特に東京は、中国を中心とした勢力がマンションや土地を投機対象としていて、いまや世界の都市別の不動産への投資額ではニューヨーク抜いて東京がトップに立っています。
先ほどタワマンの話をしましたが、東京では売り出したらあっという間に完売という物件も珍しくなく、住居としてではなく投資の対象としているケースが多いといわれています。こうしてマンション価格が高騰して、福岡でも億ションがどんどん出ているという状況です。九州では熊本も路線価が上昇していますが、これはTSMCをはじめとした半導体企業の進出が影響していると思われます。
ただ、どう影響しているかを正確に把握することは簡単ではなく、いまのように土地の価格がめまぐるしく変わる状況の中では、様々な角度から見た一応「正しい価格」である三つの指標があることには意義があると私は考えています。
路線価の歴史をみると、私はかつて「路線価8年連続下落」という記事を書いたのですが、それから20数年は上昇に転じて、今回の「4年連続上昇」という記事は明るい話題のように感じます。しかし、路線価が上がるということは、相続税や贈与税も上がるということです。私は本来、土地はみんなのもので、先祖代々の土地というものの大切さは感じながらも、親が頑張って買ったものが引き継がれて固定化することには、違和感を持っていました。
一方で、路線価が高騰して相続税を支払えず、やむなく物納、土地の現物で納税するという事態になることにはつらいものを感じます。「目白御殿」と呼ばれた田中角栄元首相の元邸宅が、197億円もの相続税のため物納されたのは有名ですが、錚々たる大物政治家が「目白詣で」を繰り広げた舞台も、税金の重みに耐えることができなかったわけですね。これはあまりにも市民感覚からはかけ離れたケースですが、路線価の上昇は物納の増加につながる可能性がありますので、路線価の本来の目的である「適正な価格」であることが求められるということを確認しておかなければなりません。
食料品など毎日買うものでない土地については、日々関心を持つということではないと思いますが、国が路線価などを公表した際に、少し考えてみるのもいいのではないかと思い、今日のテーマにしてみました。
◎山本修司

1962年大分県別府市出身。86年に毎日新聞入社。東京本社社会部長・西部本社編集局長を経て、19年にはオリンピック・パラリンピック室長に就任。22年から西部本社代表、24年から毎日新聞出版・代表取締役社長。