広島県 大崎上島の伝統行事「櫂伝馬競漕」―。コロナ禍による中止から去年、4年ぶりに復活しました。

レース中の接触事故を巡り赤の天満チームと青の郷チームがぶつかりあいました。優勝は天満チーム。3連覇を目指した郷チームは2位に甘んじました。

そして、ことし、再び対決の日がやって来ました。

郷チームの船頭、浜田慎太郎 さんは、郵便局員です。

郷チーム 浜田慎太郎 船頭
「去年、いろんなことがあったけど、熱い戦いを見せられたのがよかった。結果は2位でちょっとくやしい思いがしましたけど」

去年、乱闘となった藤原さんとは同い年です。

郷チーム 浜田慎太郎 船頭
「この時期、あまり仲良くないんですけど、どうしてもライバルというのがあって」

一方、天満チームの船頭、藤原啓志 さん。浜田さんは幼稚園からの幼なじみ。お互いの結婚式では一緒に歌を披露するほど、ふだんは仲がいいのですが…

天満チーム 藤原啓志 船頭
「同級生がやっているっていうので、変にライバル視してしまいますし。地区を背負って戦うっていうのは、自分じゃ抑えきれない感情っていうのは出てくると思いました」

藤原さんはボーカルを務めるバンドで櫂伝馬への熱い思いを歌っています。

♪「華麗なる夏の祭典」扇風機mania

櫂伝馬は、左右に分かれた14人が太鼓の音に合わせ櫂をこぎます。藤原さんはことしのレースに特別な思いがあります。

天満チーム 藤原啓志 船頭
「2月の末に父が亡くなったんですけど、木江のために尽力してきた人で、そういう意味ではすごく尊敬してて、仏壇とかね、お墓の前にもう1回、優勝旗を持って帰ってあげたいなと思っています」

一方の雪辱を期す郷チーム、日が暮れても練習は続きます。そんなチームに心強い助っ人が加わりました。初めての女子高校生マネージャーです。

大崎海星高校 2年 河内ひより さん
「本番になるに向けてみんなの気持ちが一つになっていく姿が格好よくて、伝統というのはこうやって作られていくんだなと思った」

練習を終え、櫂伝馬は陸揚げされ本番に備えます。

郷チーム
「絶対、勝つぞ!」

決戦当日 開会式で選手宣誓
「我々、櫂伝馬選手一同は、200年の歴史をつないできた先輩たちに感謝し、次の200年も続けていけるように…」

木江エリアは、島の東部に位置し、4つの地区に分かれ、4回のレースで総合得点を競います。

岩白地区は、文字通り白い石灰岩の採石場がありました。
宇浜地区は、造船所と近くの商店街でにぎわいました。
郷地区は、役場や警察、郵便局があり、木江の中心と言えます。
天満地区は、港が近くにあり繫華街としてにぎわいました。

1回戦は300mの短期決戦、勝ったのは岩白チーム。

岩白チーム 岡本龍二 船頭
「みんな緊張して強ばっていたが、漕いだらやる気になった、この勢いでいきたいと思います」

2回戦は1キロの長距離レース。潮の流れを見ながら船頭のペース配分がポイントとなります。

持久戦を制したのは、去年の雪辱を期す郷チーム。

郷チーム 浜田慎太郎 船頭
「第1レースよりはペースを遅めにして、あとは気合いでみんな、がんばってくれました」

一方、赤の天満チームは3位と低迷しました。

天満チーム 藤原啓志 船頭
「思うようにいかない、あと一歩ができない」

午前中の2レースを終わった時点で。1位・岩白、2位・郷、3位・天満。連覇を狙う天満は追い込まれました。

天満チーム 藤原啓志 船頭
「昼からはしっかり切り替えて、うちはもう2つ取る(2連勝)しかない」

第3レースは3つのブイを回る旋回コース。赤・天満チームがトップで最初のブイを折り返します。2位以下の3チームは折り返しで接触するトラブル。

天満チームがトップでゴール。これで3チームが同率で1位に並ぶ大混戦で最終レースを迎えます。

4位の宇浜チームも最終戦に意気込みます。

宇浜チーム 佐々木悠 船頭
「順位が4番ばかりが3つ並んだので、最後は一泡吹かせんといけんという気概はありますよね」

天満チームかけ声

郷チームかけ声

最終レースは沖のブイを折り返すコース。天満チームが逆転優勝

郷チームは2位
「惜しかった、よくがんばった。泣くな、よくがんばった」

郷チーム 高校生マネジャー 河内ひより さん
「島の大人や高校生が一つになって最後、子どもまで涙を流して島ならではなのかな。わたしの地元にはこういう一つになって地区ごとに戦うということが全然なかったので」

去年に続き2位 郷チーム 浜田慎太郎 船頭
「うちの子ども、一緒に乗っていたんですよ。負けてくやしかったのか、涙を流してくれて、親としてもチームの代表としても勝たせられなかったのがくやしかった」

2連覇 天満チーム 藤原啓志 船頭
「1レース目、2レース目が終わった時にはほんとに逆境に立たされたんですけど、櫂伝馬は運というのも重要なところで、最後の3レース目、4レース目というのは天国の父がおりてきてくれて見守ってくれたんかなとは思いました。ありがとうというのは帰って仏壇に伝えたいです」

― 「櫂伝馬は勝ったらカコ(漕ぎ手)のおかげ、負けたら船頭のせい」という言葉があるんだそうです。