広島県福山市の景勝地・鞆の浦で、かつての鞆港埋め立て・架橋計画に替わって進められてきた、山側トンネルが貫通しました。地元で進められる事業と、住民の思いを取材しました。

火薬を使った発破で、トンネルの中には土埃が舞います。6月28日に、福山市鞆町の山側を通過する「鞆未来トンネル」が貫通しました。トンネルは、鞆町の東西を結ぶ2.1キロの区間です。

鞆港の埋め立て架橋計画に替わる代替案として、県の事業として2022年から東側で先行して掘り進め、トンネルの東西双方から火薬による発破や、重機によって整備してきました。

県東部建設事務所 鞆地区まちづくり推進事業所 東埜泰二郎 事業所長
「このトンネルの整備の目的だが、鞆の町中の交通渋滞を解消、できるだけ抑えようということで鞆の町中を避ける形で、トンネルの整備を進めている」

2025年3月に開通する予定で、今後コンクリートが舗装されていくと、幅員3メートルずつの片側1車線の道路が現れます。

県は、トンネルの開通によって、町中の交通量の削減効果を示しています。鞆町内の中心部を走る狭い道では、1日最大でおよそ3000台減る見込みです。

記者
「鞆の住民の方、あるいは観光客にとってどう変わるか」

県東部建設事務所 鞆地区まちづくり推進事業所 東埜泰二郎 事業所長
「やはり町中の交通量が大幅に削減されることで、渋滞の解消はもちろんだが、安全な通行の確保であったり、住民の生活の利便性の向上にもつながると考えている」

鞆町内のこの細い道…。地元住民はどう感じているのでしょうか。家族で商店を営む 武内孝之 さんです。住民の「生活道路」だという認識が鞆を訪れる人たちにも必要だと訴えます。

武内孝之 さん
「(道の細さは)昔のままっていう形かもしれないけれども、実際、生活道路であって、住民のための道路っていう形になってくれないと、困るかな。観光で来られた方は、歩行者専用道路ぐらいの感じで歩いている。何回か見たことあるのは、危ないからクラクション鳴らして、観光客が端に寄るのだけれども、その車が近寄ったら一歩寄るような」

生活と観光が両立できるのか…。トンネル開通によって増えることが見込まれる観光客が生活道路であることの認識やマナーも問われてきそうです。

トンネル整備に伴う事業もあります。2023年4月から、トンネルの東側出入り口から約900メートル離れた場所で、トンネル残土を使った埋め立て工事が行われてきました。

こちらが現在の様子です。年内には埋め立てが完了する予定です。「東側交通・交流拠点」と呼ばれる全体で9400平方メートルになる敷地には、観光で来た一般車が鞆町中心部に流入しないよう100台停められる駐車場や、7台分の観光バス駐車場を備えます。

県はこの埋め立て地に、浮桟橋を設けます。鞆町中心部の散策を楽しむ観光客は、新たにこの桟橋を発着する市営の渡船に乗って中心部へ向かうこととなります。

福山市は渡船の新たな運航ルートの検討を進めていて、仙酔島を経由し、鞆港内を行き来するルートが有力な候補として想定されています。従来の渡船は、鞆港より東側に位置する乗り場から仙酔島までを1隻で往復していました。新たな運航ルートになると、1隻では、乗船までの時間がかかるため、市は2024年度から、もう1隻追加した2隻体制になるよう、新たに船を建造していく作業を始めました。新たな船は2026年度に完成する予定です。渡船によって、直接、鞆の町中へ移動することで、交通量の抑制につながることが期待されます。

山側トンネルとして話が進んでいくまでには、幾多の紆余曲折がありました…。1983年に県が鞆港埋め立て架橋計画を策定。その後、2007年には、計画に反対する一部の住民らが県を相手に、埋め立て免許の差し止めを求める訴えを起こすなど、論争は司法の場へと展開していきました。事態が動いたのは提訴から5年後。2012年に行われた湯崎英彦知事と当時の福山市長とのトップ会談でした。

湯崎英彦 知事
「(山側トンネル案は)求められる定時制や通過交通の排除といった生活の利便性や安全の確保と、景観保全とを両立させながら全ての住民ニーズについて最もバランスよく満たすことができる」

埋め立て架橋計画を撤回し、山側トンネル案へと舵を切った瞬間でした。

2009年から24年3月まで、鞆町内の22の単位町内会をまとめる鞆町内会連絡協議会の会長を務めた 大浜憲司 さんは振り返ります。

鞆町内会連絡協議会の前会長 大浜憲司 さん
「その知事が撤回をされて、挫折感というか、盛り上がってきた気持ちというのが萎えてきたのは事実。(3か月くらい後には)トンネルという形のもの、形態が、鞆のいろんな意味での一助になればと」

そして大浜さんは最後に、「鞆未来トンネル」と名付けられたトンネルに思いをはせました…。

大浜憲司 さん
「鞆未来トンネル。そこのトンネルを通って未来へ行くということは、過去を当然見ることになるから、みなさんと同じ夢が見ることができれば一番良いかな」