ヘイトスピーチを無くすために、“デザインのチカラ”を使って奮闘するグラフィックデザイナー、森川さんを紹介します。

毎週水曜日の昼下がり、那覇市役所前では「シーサー平和運動センター」などと名乗る団体によって、およそ5年間もの間、公然と差別の言葉が飛び交っていました。

シーサー平和運動センター 久我信太郎氏
「韓国人は大日本帝国の朝鮮統治がなかったならば未だにハングル語を書けもしないし、読めもしておりません」「チャイニーズは一人一人が、歩く生物科学兵器だといって少しも誇張もございません」

このように国籍や人種などで一くくりにし、攻撃したり、侮蔑したりするヘイトスピーチ。「シーサー平和運動センター」などと名乗る団体が“情報伝達”と称して公然と繰返してきました。

県はヘイトスピーチ規制条例の制定を進めていますが、他県で実効性が確認されている刑事罰などを盛込むことは明言していません。
現状は有志の市民たちが体を張って阻止しているのが現状です。
“街宣”が行われる前の先回りしての座り込みは4月で100週を超えました。

市民たちによる抗議活動=カウンターはSDGsの「人や国の不平等をなくそう」という開発目標につながっています。

カウンターを行う上で、無くてはならないアイテムがあります。

カウンター参加者
「やわらかい表現で、メッセージを優しい気持ちで受け取れるんじゃないかな」
「とっても広い人たちに受け入れられやすい。多くの人たちに普通に考えて欲しい、一緒に。作った気持ちにそういうものがあったと思う」

さらに、ヘイトスピーチを正しく知ってもらうために、オリジナルのパンフレットを作成して配布。

森川さん(仮名)
「ヘイトスピーチがあって、悲しんでいる人がいるっていう」

ポスターやチラシをデザインしてきたのはおよそ2年前からカウンターに参加する
森川さんです。

森川さん(仮名)
「じゃあ僕やりますって。僕の趣味ですから。全然無料で。当然!」

趣味とはいえない完成度。実は森川さん、プロのグラフィックデザイナー。
東京でWebサイト制作などを手掛ける会社に在籍しながら腕を磨き、独立。
6年程前に沖縄に移住しました。

森川さんが手がけているデザイン。生み出されるまでには、地道な作業が。
この焼き肉店のデザインに行きつくまでにも、満足感を演出するために舌をつけたり、アットホームな雰囲気にしたり、クライアントと打合せが続いたといいます。

森川さん(仮名)
「(企業などの)ロゴでいったら本当に1案あたり50個とか100個とか。光が見えたかと思ったら、やっぱりダメだったとか。いつまでたっても、スムーズに仕事が出来るようになったとは思わない」

そんな仕事の傍ら手掛けた一つがヘイトスピーチについて知ってもらうパンフレット。描かれるのは深刻な問題を親しみやすく伝えるイラスト。
このデザインにたどり着くまでには、普段の仕事とは違う“生みの苦しみ”が
あったといいます。

森川さん(仮名)
「いつもはお客さんの要望を聞いて、答えを出すということをやっているんですけど。いざ自分がクライアントになると、もっともっとというのがあるので。創っては壊し、創っては壊しやっていた」

森川さんがヘイトスピーチに関心を持ったきっかけはおよそ5年前。
沖縄に移住して間もない頃、仕事中に“ながら見”していたYoutubeで、偶然みた「ニュース女子」の動画でした。

沖縄の東村高江のヘリパッド建設に触れ、基地建設反対派が救急車を止めた等と報じ、この番組を放送した東京MXテレビはのちにBPO=放送倫理・番組向上機構に
放送倫理違反を指摘されています。

森川さん(仮名)
「このデマが本当なんだと信じている人の方が、ネット上においては多いかなという。それは“いいね”の数だったり。リツイートの数で明らかになっていて。今相当まずい状況かなと」

ことし2月、市民たちはネット上にはびこるヘイトスピーチの現状を、規制条例の制定に関わる議員や関係者に知ってもらうための展示会を開催。
この空間をデザインしたのも、森川さんです。

来場者は-
「ちょっと驚きですね。ここまで今日本が抱えている“闇”っていうのかな。そういうものが表に出て来て」

玉城健一郎沖縄県議会議員
「心がナイフで切り裂かれるような言葉の強さ。傷つきますよね。何らかの規制をしなければならないと思います」

展示会に足を運んだ県議会議員は、翌週、県議会でヘイトスピーチを規制するためには実効性のある条例が必要だと、持ち時間の大半を使って訴えました。

玉城健一郎沖縄県議会議員
「ヘイトスピーチっていう、個人の尊厳を損なうような行為。そういった表現を、やはり(憲法の)表現の自由があるからと逃げてはダメだと思う。正直言って後ろ向きすぎる」

市民たちは来月にも、ヘイトスピーチの実態などを伝える展示を計画しています。
デザイン担当は、今回も森川さんです。

森川さん(仮名)
「仕事かっていうぐらいの作業量になってきた。でも、やりたいことなので。ふつうは素通りするような人たちにちょっと振り向いてもらいたい」

【記者MEMO】
森川さんは新たな展示では19枚もの大型パネルを手掛けます。そして森川さんのパンフレット、沖縄バージョンのほかに全国バージョンもあり神奈川県川崎市でも配布され、広がりを見せています。