国立環境研究所、あゆとも動物病院、岩手大学の共同研究グループは、絶滅危惧種イリオモテヤマネコの体内でウイルスを認識するセンサーの応答性がイエネコと類似していることを明らかにした。イエネコで致死性が高い高病原性鳥インフルエンザなどの感染症が、イリオモテヤマネコでも重篤化する可能性を科学的に示した初の研究である。この成果は9月25日付で国際学術誌『PLOS One』に掲載された。

個体数わずか100頭、感染症が新たなリスクに

イリオモテヤマネコは沖縄県の西表島のみに生息する日本固有亜種で、個体数は約100頭と推定される。IUCNレッドリストで絶滅危惧IA類に評価されている。今後の個体数減少要因として懸念されるのが感染症だ。イエネコで致死性が高い感染症が、近縁のイリオモテヤマネコでも発症・重症化する可能性が指摘されてきたが、実験的な検証は困難だった。

ウイルスを感知する「門番」の仕組み

動物の細胞には、体内に侵入したウイルスを感知する「門番」のような仕組みが備わっている。「RIG-I」と「MDA5」は細胞内でウイルスのRNAを認識する受容体で、ウイルスを検知すると警報を発する役割を担う。この警報によって、炎症性サイトカイン(細胞間の情報伝達物質)や抗ウイルス物質が作られ、感染への防御反応が始まる。この応答が適切に機能しない場合、感染症が重症化しやすくなることが知られている。例えば、ニワトリはRIG-I遺伝子を持たないため、鳥インフルエンザに対する感受性が高いと考えられている。

細胞レベルで応答性を比較

研究グループは、国立環境研究所に凍結保存されていたイリオモテヤマネコの体細胞と、イエネコの細胞を使用。ウイルス類似した物質をばく露し、ウイルス認識センサーであるRIG-IとMDA5遺伝子の応答性を比較した。これらの遺伝子は、鳥インフルエンザをはじめ多くのウイルス性感染症の重症化に大きな影響を及ぼすことが知られている。

解析の結果、両種ともRIG-IとMDA5遺伝子の発現が上昇し、炎症性サイトカイン遺伝子や抗ウイルス遺伝子の発現も誘導された。さらに、インフルエンザなどの感染症で活性化する経路が両種で共通して抽出され、大きく発現変動した遺伝子の多くも共通していた。

早急な感染症対策が必要

高病原性鳥インフルエンザは、2022年に沖縄県で初めてニワトリでの発生が報告された。西表島ではまだ報告がないが、感染拡大に備えた対策は急務と言えそうだ。