那覇市にある首里城下町クリニック。内科専門のクリニックで、糖尿病やリウマチなどの治療に取り組んでいます。ここで保健師として働く、田名彩子(たな さいこ)さん。生活習慣病の食事相談など保健指導にあたっています。
一見普通のクリニックですが3年前から夜の時間を活用して、あることを始めました。


首里城下町クリニック 田名彩子さん
「昼間は待合室なんですけど、夜は子ども達が集まる自習室になっている」

診察を終えた後、毎週月曜と水曜の週2回、午後6時から午後9時半までの間、待合室を自習室として開放しています。

​首里城下町クリニック 田名彩子さん
「娘の子育てを通して学ぶこととか学ぶ環境が、すごく大事だなと感じていた。ここを学びの場にするといいのかなと思って始めた」

長年、夜のクリニックを有効に活用できないか考えていた田名さん。子育てがひと段落したことを契機に『町の自習室』を始めました。学習塾のように講義をするのではなく、子ども達の自主性を重んじ、勉強に集中できる、自習の場を無償で提供しています。


自習を行う生徒は―
「家より静かだからやりやすい。図書館でやっていたが、どうしてもマンガとかに手がいっちゃって、それで集中できなかったので、そういうものがないこっちの方がいい」
「自習時間が増えたので、成績や模試の点数は良くなっていった」

学習する習慣が身につき、学校の成績にその成果が表れた生徒もー

自習を行う生徒
「数学は1番苦手。学校で微分とかもやっているので、頭が追い付かないというか、結構苦戦しながらやっている」

1人で勉強していると、分からない部分は放置してしまいがちですが、ここには学びをサポートする体制も整えられています。

「すみませーん、ちょっと数学の…」


子ども達の疑問に答えるのはボランティアの大学生。琉大医学部の学生で、クリニックならではの繋がりをいかしています。

​首里城下町クリニック 田名彩子さん
「今このようにたくさんの子ども達が利用し、学習支援のボランティアも来てくれているので、すごくありがたい、利用してくれてありがたいなと思っている」

今では中高生およそ20人の学びの場として定着していますが、以前は1人も参加せず、ニーズがあるのかどうか、思い悩んだ日もあったと言います。そんな時、ボランティアの学生からの提案で開催したのが、子ども達と親睦を深める「おしゃべり会」。お菓子を食べながら、大学生活や勉強方法について、ざっくばらんに会話をする場を設けました。

参加した生徒
「大学生活を思い描けるような会話ができたと思う」
「どういう風に勉強しているとか、自分は医療関係の仕事に就きたいので、医学部の人と話せるのはとてもいい機会」


こうした交流によって、子どもたちが足を運びやすくなり、地域の学びの場として浸透していきました。

​首里城下町クリニック 田名彩子さん
「ロールモデルとして自分も将来について考えてみようかなとか、目の前の勉強を頑張ってみようかなと思ってくれたらなと思う」

子どもたちが将来を考える機会を生み出し、学びの場を提供する取り組みは、SDGsの目標につながっています。

「はい、お食事の時間で~す。6時半でしたよね」


学びだけではありません。部活やクラブ活動を終えてやってくる育ち盛りの子どもたちのため、温かい夕食も用意しています。元々クリニックには、食事指導のためのキッチンが備えつけられていて、調理師や管理栄養士が在籍。バランスがとれた栄養ある夕食を100円で提供しています。

自習を行う生徒
「最初1コインと聞いていたのでパンと牛乳くらいかなと思っていたら、ちゃんとがっつりとした夜ご飯で、バランスもとれていて、すごいなと思った」
「いつも沖縄そばとかカレーとかもめっちゃ豪華なやつとか出ていて、クリスマスとかなったら、ケーキとかも出ていて、100円で全部おかわりできるので、とってもいい」


​首里城下町クリニック 田名彩子さん
「子どもたちに学びの場を提供して、学ぶことで選択肢を広げ、自分の夢に向かって、希望を持ってほしい」

昼間は医療を、夜は温かな学びの場を提供するクリニック。医療機関の強みをいかし、子どもたちの未来を支えています。