戦争は美しいもの 勇ましいもの 素晴らしいものと思われたら困る

真珠湾攻撃で始まった太平洋戦争──
原口さんはその後「戦艦武蔵」の乗組員や「ゼロ戦」のパイロットを経験しました。戦時を生き延びた原口さんは太平洋戦争の生き字引のような人でした。

2014年10月、私は生前の原口さん(当時92)を取材したことがありました。私は『戦争中の武勇伝めいた話』を聞こうとしたときのことでした。原口さんは諫めるように私にこう言いました。

「戦争は美しいもの 勇ましいもの 素晴らしいものと思われたら困る。これが一番困ります。戦争はね、怖いもの 恐ろしいものです。やってはいけないものです。
相手になった弱い人、小さい人、その人のことを考えないといかんのです。必ず相手がおるわけですから」

原口さんの『戦中日誌』には、真珠湾への出撃拠点となった択捉島で起きた “ある出来事”も記録されていました。旗艦空母「赤城」が出撃するとき、スクリューにワイヤーが絡まって出港が一時間も遅れたというのです。

太平洋戦争の始まりとなった真珠湾攻撃。その最初の一歩でおきたトラブルについて原口さんは亡くなる直前の手記でこう記していました。

《世紀の壮挙への出陣にあたり あまりよくない前兆であったとおもう》

真珠湾攻撃から82年。戦争体験者がいくなる時が迫る中、原口さんが残した「戦中日誌」は後世の人が戦争を理解する手掛かりとなる記録でもあるようにも感じます。