事故現場は「あまりの衝撃だった」
貴弘は結構我慢強い子ですが、けがをして痛がって泣いているかもしれない。けがをしていたら私は明日、会社を休ませてもらおう。とそれくらいしか考えていませんでした。着いた事故現場というのは貴弘が通う小学校のすぐ近くの交差点でした。私たちが着いたころには、もうすでに大勢の人だかりができていて、その中にぐったりと倒れている貴弘の姿がありました。
私はそれを見たあまりの衝撃に、すぐにその場の状況を理解することができませんでした。その時、周りにいる誰かが、「意識がないのが心配だ」と言ったことで、貴弘の状態がとても深刻であるということにその時初めて気が付いたのですが、もうどうすることもできず、そこに立っているだけでした。

とにかく落ち着いてと、一生懸命、自分自身に言い聞かせていました。
そして道路に横たわったまま、全く動こうとしない貴弘に私がどれだけ名前を叫び続けても、何の反応もありませんでした。そして、今にも止まりそうな小さくて浅い呼吸をどうにかやっとしているという状況でした。救急車が来るまでの時間はわずか15分くらいだったと思いますが、私にとっては1時間にも2時間にも、本当に長く思えてなりませんでした。
搬送された病院にて「手術はできません」
救急車が現場に到着しすぐに近くの総合病院に搬送されました。
病院に着くとすぐに検査となり、その後医者から検査の結果の説明を受けました。でも、私は頭が混乱している状況だったので、医者の言葉を全く理解することができませんでした。ただ「貴弘は助かるのですか」とそればかりを繰り返し聞いていました。そして医者からやっと聞き取れた言葉というのは、「もうこの状態では手術はできません。今夜がヤマです」という一言だけでした。

私は何も考えることができなくなりました。数時間前までの幸せな生活が一瞬で崩れていくのが分かりました。でも、貴弘が死ぬわけなんかない。そんなこと絶対にありえないと自分自身に言い聞かせていました。そうやってどうにか一晩乗り越えることができ、貴弘の命だけはとりとめることができました。でも頭を強く打っている状態だったので自分で呼吸することができず人工呼吸器を装着されました。そして腕にはたくさんの点滴のチューブが取り付けられました。