川魚の呼び名にも驚くほど豊かな地域差があることをご存知だろうか。海の魚に比べてあまり注目されない川魚だが、その方言の多様性は海の魚に負けていない。今回は、小さなメダカから渓流の王者イワナまで、川魚の方言について探ってみよう。

子どもの頃、小川や田んぼでよく見かけたメダカ。現在では環境の変化により野生のメダカを見る機会は減り、ペットショップで購入して水槽で飼う観賞魚となってしまった。

そんなメダカだが、実は日本で最も多くの方言が記録されている生き物なのだ。辛川十歩・柴田武『メダカの方言―5000の変種とその分布』によれば、全国でなんと5000種類近い方言が確認されている。

調査は、昭和10年(1935年)から昭和47年(1972年)までの37年間、日本国内のほか、戦前に植民地だった朝鮮半島、台湾の日本語地域を含む2万4574地点で実施され、4680語ものメダカの方言が記録された。

これらの方言は、形の類似性から大きく4つのグループに分類できる。

1. ザコ系:ザコッコ、ザコメなど(茨城・栃木・山梨・福岡・佐賀・熊本・鹿児島に分布)
2. メダカ系:メダカ、メメタカ、メザコなど(関東、北九州、山口など全国に広く分布)
3. ハエ系:ハイ類(福島から熊本の広い地域に分布)
4. コメン(ジャコ)系:コマ、ミミ、ミミジャコ、メンパチなど(近畿地方から中国・四国地方にかけて分布)

そして、その分布状況から、これらの方言は、①ザコ系→②メダカ系→③ハエ系→④コメン(ジャコ)系の順に新しくなると考えられている。

なぜメダカの方言がこれほど多様なのか。それは古くから子どもの遊び場であった小川や田んぼにいたメダカが、子どもたちの関心を引きやすい魚だったからだろう。