地震と豪雨の被災地で進められる、建物の公費解体。石川県は目標を上回るペースで解体が進んでいるとしていますが、その裏では、作業員への賃金未払いや多重下請けといった問題が潜んでいました。しかし、元請け業者にも、一筋縄ではいかないある課題があります。
県議会・環境農林建設委員会 自民党・和田内幸三県議
「途中でおらんくなるとか、もう3日も4日も現場誰も来んとか。その原因は何かというと『支払いが悪い』ということ」

この日、県議会でも取り上げられた解体業者への賃金未払い。自民党の田中敬人県議は、元請け業者の実情をこう明かしました。
自民党・田中敬人県議
「なかなか書類が揃わなくて提出が遅れていると。(元請け業者が)お金を払うために立て替え払いをしていて、それがどんどん膨らんでいき、とある元請け業者は立替え払いの総額が20億を超えた」

「これ(紙が)3千枚あったら大変ですよ。非効率さ、感じますよね」
金沢市内に本社を置く宗重商店。現在、穴水町に入っている解体チーム48班を管轄する元請け業者です。

解体工事が終わると、下請け業者から元請け業者へ、元請け業者から県構造物解体協会に請求書が送られます。市や町は、協会に対し、請求書を受け取った日から30日以内に工事代金を支払う必要があります。その後、協会から元請け業者に、そして、元請け業者から下請け業者に代金が支払われる仕組みです。

元請け業者は下請け業者に対し、協会から支払いを受けてから1か月を目安に代金を支払いますが、元請け業者にとって膨大な事務手続きがつきまといます。
宗重商店・宗守重泰社長
「これが、1か月の量ですね。段ボール8箱分。これを持って協会に行ってハンコ押してもらって役場に持っていく、穴水まで。すごいでしょ」

見せてもらったのは、大量の書類がとじられたファイル。工事で発生した産業廃棄物を記録する「マニフェスト」のほか、着工の前後に現場で撮影した写真などを穴水町に提出する必要があります。

宗重商店・宗守重泰社長
「1棟につき、このくらいのファイルが必要になるわけですけど…下請け業者が我々に請求書を送ってくるわけですよ。それを踏まえて書類を作成して。それだけで早ければ1か月、時間かかれば2か月のタイムラグがあるわけですよね」
こうした煩雑な手続きを経て、工事完了から下請け業者への入金までにかかる期間は4か月以上。下請け業者への支払いを滞りなく進めるため、元請けであるこの業者は、代金を一時的に立て替えているといいます。

宗重商店・宗守重泰社長
「年間の売り上げと同額くらいありますからね。最高(立替えの総額が)、24億まで行ったんじゃないかな。銀行から、借りっぱなしですよ」
「書類の大変さを軽視している部分はある、それは行政に対して思うこと。『やってみろ』と思う、これを」
元請け業者が行っているこうした膨大な事務作業については、先日開かれた県議会の委員会でも、こんなやり取りが…。

自民党・田中敬人県議
「書類の提出がかなりマンパワーを確保するのに精いっぱいだと。県から直接携わるものじゃないかもしれないが、指導できるのでは」
県生活環境部・成瀬英之部長
「書類の簡素化については、どういったことができるか勉強させていただきたい。実態を把握したうえで協会と連携していきたい」
県構造物解体協会によると、協会の管理下にある2次下請けまでの業者については、先月末時点で賃金の支払いがきちんと行われていることが確認できているそうです。一方で、それより下の3次・4次といった下請け業者が存在する場合、その実態把握は難しいとしています。
協会の役員の一人は、「今年10月までの完了目標に向けてより多くの作業員の動員が必要になったことで、実態の分からない下請け業者が間に入るケースも少なくないのではないか」と話しました。