スピードと持久力を持ち合わせた小柄な鈴木選手
徳之島合宿7日目。クロスカントリー練習の翌日は、スピード強化練習。空港近くの町営陸上競技場では、鈴木選手最大の武器が磨かれていた。
メニューは1000メートルを4本。トラックを2周半、ハイスピードで走り、半周ジョグを挟んで再びハイスピードというインターバルトレーニング。

鈴木選手は身長163センチ、体重48キロ。練習に参加している富士通の4選手の中では最も小柄だが、走る姿は大きく見える。風上に向かうストレートでも、前に引っ張られるように風を切り裂き、ダイナミックなフォームでピッチを刻んでいく。3本目には他の選手のペースが落ち始めるが、鈴木選手のリズムに変化は全く無く、むしろ周回を重ねるごとに、そのスピード力が際立っていく。その様子に福嶋正監督も納得の表情だ。
富士通 福嶋監督
「健吾は効率のいい走りができるので、上下動が全くない走りができる。トラックでも1万メートルを27分台で走ってスピードもついてきているので、スピードと持久力と両方兼ね備えてきたというのはあります」
その「両方すごい」という時代の求めるヒーローの要素を、あっさりと体現してみせたのが'22年3月の東京マラソン。鈴木選手はペースメーカーから解き放たれた25キロ付近で日本人単独トップに躍り出ると、自身の日本記録を上回るペースで35キロ地点を通過。'21年のびわ湖毎日マラソンで見せた驚異的なスパートは封印しながらも、心の余力を十分に残して全体4位、日本人トップの2時間5分28秒。東京駅をバックに、颯爽とフィニッシュラインを駆け抜けた。
ただ、そのクシャクシャになった表情に、これほどの重みが隠されていたとは誰も想像していなかった。