所変わってこちらは大槌町の安渡(あんど)地区。公民館の駐車場の一角に、樹齢100年とも伝わるサクラが1本だけ立っています。安渡小学校だったこの場所にはかつて13本の桜並木があり、春には見事な花を咲かせていました。

(安渡町内会 佐々木慶一会長)
「桜並木が非常に華やかな場所だったんで安渡のシンボルとして誇らしげな桜だったんじゃないかと思います」


 東日本大震災で避難所になり、後に仮設住宅が建ったこの場所で、桜並木は人々を見守り続けてきました。2015年、新たな公民館をこの場所に建てるにあたり、グラウンドのスペースを確保するため町内会はやむなく全てのサクラの木を伐採するにしました。ところが・・・

(東京大学大学院特任研究員 尾﨑信さん ※2015年)
「安渡小学校のサクラを1本だけ残すことができないかと」

 当時、安渡地区のまちづくりのアドバイザーを務めていた東京大学特任研究員の尾﨑信さんです。
 「一本だけ桜を残して欲しい。将来、絶対に地区の誇りになる」。
 尾﨑さんは思いをビデオメッセージにして大槌に届けました。

(尾﨑信さん)
「町内会の役員会で決まったことに口を出す非礼はお詫びいたします。しかし専門家として安渡にとって非常に有益ではないかという思いが抑えきれずにこのようなお願いをする次第です」


 管理方法などにも踏み込んで提案する尾﨑さんの熱い思いに、地区の人々は1本だけサクラを残すことにしました。
 あれから8年。今年も満開を迎えたサクラを愛でながら、公民館でお花見会が行われました。

(住民)
「いいですね春は。うきうきっつうわけでもないけど解放感があってね」
「震災の時ここに体育館があったのね、体育館さ皆入って、朝起きて顔洗うときはこのサクラを必ず見だったの」

 町内会は専門家に相談しながら、このサクラを長生きさせつつ、「子孫」を増やす計画を立てています。

(森匡弘さん)
「花いっぱいつけるというのは子孫を残すためというか、弱ってるから花つけたりしますんで」

 樹木の管理や伐採に携わる、滝沢市の森匡弘さんです。町内会から相談を受け、弱った部分の手入れや根元の土壌改良に地区の人々と取り組んでいます。


(森匡弘さん)
「来てみて公民館の方や地域の方々の思いとかがすごく伝わってきて。そういう思いってのは桜にも届くと思いますし。来年も再来年も花を咲かして頂けるようにメンテンナンスというかお手伝いができればなという思いではおります」

 復興を見守り続ける「安渡の一本桜」。そのごつごつとした太い幹には地区の歴史が刻み込まれているようです。

(安渡町内会 佐々木慶一会長)
「今あるサクラの枝から枝を切り取って接ぎ木をして増やそうという計画がありますんで、できればうまく増えたらばどこかに桜並木をつくりたい。できればこの周辺に桜並木を作りたいなという思いはあります」


 安渡のシンボルだった桜並木がよみがえる日を、人々は楽しみにしています。