“代打の切り札”の全力プレー

青森山田 藤田一颯選手
「甲子園でヘッスラをする怖さはなかったです」

藤田選手は夏の大一番で迎えた打席を振り返った。
滋賀学園戦の3回、先発した下山投手の打席に代打で送られると、カウント1-2の4球目。フォークをひっかけた。打球は高く弾んで二塁手の前へ。走った。そして一塁に飛び込んだ。ベース上で何度も左拳を握った。自身にとって青森県大会を含めて初のヒットは得点にこそつながらなかったが、「代打の切り札」の面目躍如のヒットだった。

小学5年生の秋に大会で優秀選手賞をもらった藤田選手 (首にメダルをかけているのが藤田選手)【写真提供:藤田選手の母・千恵さん】

アルプススタンドで見守った母・千恵さんは、そんな息子の姿をはらはらと見つめていた。

青森山田 藤田一颯選手
「ヘッドスライディングしなくていいような打球だったけれども、ガッツを見せたいという想いが伝わって『ジーン』と来ました。ただ、手術したことも頭によぎったので…またヘッスラしたかと」

藤田選手は1年生の秋の練習試合でヘッドスライディングをした際に右肩を故障した。これまでも何度もけがをしていた箇所だった。医師からは手術を勧められた。決断は早かった。

「3年生になった時に全力でプレーできるように―」
全ては“この夏”のためだった。