ドラマ「らんまん」のモデルとなった植物学の父・牧野富太郎博士にちなんで開発された「マキノジン」というお酒がある。このジンの誕生の裏では、数々の奇跡が起きていた。まるで、博士が導いてくれたかのように。
ボタニカルには牧野博士命名の「スエコザサ」も
高知市の繁華街にある老舗バー。落ち着いた佇まいのカウンターで、慣れた手つきでシェーカーをふる塩田貴志さん(66)。
この道42年のベテラン。自慢のカクテルが、ジンをベースにしたものだ。それも、自ら開発したという「マキノジン」を使っている。

「マキノジン」は、高知県佐川町出身の世界的な植物学者・牧野富太郎博士にちなんで名付けられた。「酢みかん文化と称される高知自慢の柑橘類に合うクラフトジンを」当時、バーを経営しながら食品産業のリーダーを育成する講座に通っていた塩田さんが思い立ち、開発を進めた。
ジンは、穀物を原料とした蒸留酒のこと。香味として、香草や薬草類を加えて再蒸留させて造られる。今、世界的にクラフトジンブームがきている。国内でも、地域の植物=ボタニカルを使ったクラフトジンが次々と誕生している。

塩田さんは、ベースとなるお酒に、若いころから大好きだった佐川町の司牡丹酒造の焼酎を。キーボタニカルには、牧野博士が発見した「スエコザサ」を使っているほか、カヤの木の削り節、ブシュカンの皮など12種類を加え、蒸留している。
初の蒸留は2021年。何度も試飲を重ね、様々な香りと味わいが楽しめるジンに仕上がった。マキノジンのラベルには、スエコザサ発見の年の牧野博士の姿が描かれている。
マキノジンの完成までには、ミラクルの連続があった。不思議な縁に導かれたかのような、マキノジン。最初の奇跡は、牧野博士生家の酒蔵跡に眠っていた、古い蒸留器だ。