「9秒9で落ちるかも」ハイレベルな男子100m

男子100mのサニブラウンの走りは衝撃的だった。最後の7組に登場し、苦手としたスタートからの加速で早くもトップに立つと、中盤で大きくリードした。後半も危なげない走りでフィニッシュすると9秒98(-0.3)のタイムが出ていた。自己記録に0.01秒と迫るタイムで、日本選手が五輪&世界陸上で出した最高記録の10秒05(16年リオ五輪の山縣亮太と17年世界陸上のサニブラウン)を大きく上回った。

13年世界陸上モスクワ大会の準決勝で10秒00を出した選手が落選しているが、9秒台を出して決勝に進めなかった例は五輪も含めてない。100m決勝進出は世界陸上では初めてになり、五輪を含めても1932年ロサンゼルス五輪の吉岡隆徳1人しか実現していない。サニブラウンが準決勝でも9秒台を出せば決勝進出の可能性は大きい。

サニブラウン自身も手応えを感じていた。「アップ通りにしっかりスタートで出られて、中盤までしっかり作り、後半もリズムを感じながらスーッと抜けられました。明日につなげられるものすごく良いレースでした」

ただ、予選全体で9秒台が7人出ている。サニブラウンも「9秒9で落ちるかもしれない」と言うほどレベルが高い。しかしサニブラウンが走った予選7組は、9秒台が出た中では唯一向かい風だった。先ほどのコメントからは、「スタートがハマる」動きができ、その後の加速も上手くできたことがわかる。男子100mの歴史に残る快挙を期待していい。

田中希実は2レース、男子マラソンも号砲

男子マラソン代表(左から)西山雄介選手、鈴木健吾選手、星岳選手
その他の日本勢では女子10000mの廣中璃梨佳(21・JP日本郵政グループ)に、東京五輪の7位に続く連続入賞の期待がかかる。

女子1500mで世界陸上初の準決勝進出を果たした田中希実(22・豊田自動織機)は、予選を着順で通ることができず、タイム上位者(プラス)に入っての通過だった。東京五輪に続く決勝進出は難しい状況だが、本人が「ゾーンに入った」と言う東京五輪のような状況を作ることができれば可能性はある。

男子マラソンは現地時間では大会3日目の17日の実施だが、日本時間では2日目の午後10時15分スタートになる。日本記録保持者の鈴木健吾(27・富士通)、今年の別大マラソンを初マラソンで制した西山雄介(27・トヨタ自動車)、今年の大阪マラソンをやはり初マラソンで制した星岳(23・コニカミノルタ)の3人が出場する。

自己記録では2時間04分56秒の鈴木は12番目タイだが、2時間2~3分台の記録を持つ選手は4人しかいない。鈴木自身も「思い切ってチャレンジする」と、メダル争いに加わるつもりだ。

男子100mに好記録の予感

外国勢にも男子100m予選で快記録が生まれた。全米選手権を制したF.カーリー(27・アメリカ)が9秒79(+0.1)を予選2組でマークしたのだ。4ラウンドで行われていた時代の2次予選を含め、世界陸上予選での最高記録は97年アテネ大会でA.ボルドン(トリニダードトバゴ)が出した9秒87(+1.3)だ。カーリーはそれを大きく上回った。
U.ボルト(ジャマイカ)の9秒58(+0.9、09年世界陸上ベルリン大会)の世界記録までは難しいかもしれないが、世界歴代2位の9秒69を上回る可能性はある。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)