オレゴンで期待できるラスト1000mのタイムアップ
そして三浦には、3000m障害でより力を発揮する武器がある。小学生の頃から地元クラブでハードルを行っていたため、ハードリング自体が上手い。そして障害に向かってスピードを上げていくことができ、着地後にも大きなブレーキが生じないで、スムーズにランニングに移行できる。
そこがしっかりできているときは、残り1000mを切って障害に足を乗せずに越えていく。通常は障害に一度足を乗せて越えていくが、スピードを上げるときに足を乗せないハードリングになる。ゴールデングランプリでは残り1000mを切っても障害に足を乗せて越えていくハードリングが何度かあったが、日本選手権では1000mを切ってからはすべての障害で足を乗せずに跳び越えていった。
それでも三浦は「跳べたからOKというわけではありません」と課題を話した。
「障害に向かっていくときに(本来の踏み切り位置に)足が合わず、小刻みに合わせてしまった障害もありました。着地のダメージが大きかったところもあった。スピードを殺さないような軽やかさが、今回はあまり感じられませんでした」
昨年は3000m障害に多く出場して東京五輪に合わせたが、今季は前述のように2レースしか走っていない。三浦の感触ではラスト1000mにまだまだ改善の余地がある。ゴールデングランプリも日本選手権も、最後の1000mは2分42秒台だった。東京五輪の予選は2分39秒0、決勝は2分39秒8である。
金メダルのエル・バッカリは2分32秒4だが、さすがにそこまでは難しい。長門監督は2分35秒まで上げてほしいと話しているが、2分37~38秒に短縮すれば4~6位入賞が可能になる。
トレーニングの流れは東京五輪前と同じに
東京五輪と同じプロセスにこだわらず、どうしたら世界と戦えるかを考えた。その成果が1500mのスピードと5000mのスピード持久力向上だったが、それと引き換えに3000m障害のレース数が少なくなり、ラスト1000mの走りに「キレがなくなっている」(三浦)という状況になっている。だが、その課題がクリアできれば、1500mのスピードと5000mのスピード持久力を、今までよりも生かす3000m障害になる。また、着地後に軽やかさがないのは、筋力が不足しているからだと自覚できた。日本選手権後に三浦は、脚筋力アップのための補強を多く行っている。
トレーニングの組み立ては昨年と変わっているが、大一番に向けては昨年と同じになってきた。長門監督はダイヤモンドリーグ出場の狙いを「練習の流れでフラットレースで刺激を入れることと、世界陸上前に海外の選手と走る機会が欲しかったこと」の2つを挙げた。
「昨年の東京五輪2週間前にも5000mを自己新で走っていました。あわよくば日本記録(7分40秒09/大迫傑)もと考えていましたが、(高速ペースなど)初めてのことだらけで対応できませんでした。その中でしっかり自己新を出したことは評価できます。あとは障害とフラットの違いはありますが、レベルの高いレースで揉まれて走ることを世界陸上前に経験できて良かった」
6月の時点のシーズンベストも、3000m障害のレース数は少なくとも昨年と同レベルだ(厳密には今季の方が1秒52良い)。世界のレベルが上がったため昨年以上の順位に入れるかどうかは五分五分だが、タイムは東京五輪予選で出した日本記録を上回る可能性が膨らんできた。
着順も東京五輪を上回ったときは、スピードとスピード持久力アップなど、三浦の取り組みが世界トップレベルへの階段をしっかり上っていることを証明したことになる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

















