三浦自身も昨年は、日本記録を3回も更新し(東京五輪予選で出した8分09秒92が現日本記録)、勢いで五輪入賞まで駆け上がった。しかし勢いで成し遂げたことを再現するのは大変で、三浦もそこを理解して「今年は頭打ちすると覚悟している」と話したこともあった。
だが、シーズンが進むにつれ、三浦の取り組みが着実に結果に現れ始めた。三浦がオレゴンで東京五輪を上回れば、本当の意味で世界の戦いに身を置くことができる。
昨年よりも活況を呈している世界の3000m障害
三浦も順大の長門俊介駅伝監督も、目標をそのときどきで上手く分けて設定している。「8分は切ると断言したい」と大きな目標を話すこともあれば、目前のレースに対して現実的なタイムを話すこともある。世界陸上が近づくにしたがって、2人とも世界のレベルが上がっていることを言及するようになった。「三浦のレベルは間違いなく上がっていますが、今年は世界の選手たちの仕上がりがかなり良いんです」(長門監督)
世界陸上オレゴンのエントリーリストが7月7日に発表され、今季8分14秒47で走っている三浦はシーズンベストでは12位。東京五輪のエントリーリストでも8分15秒99で13位だった。順位は大きく変わらないが、リスト上位選手たちの記録は明らかに上がっている。東京五輪前のシーズン世界最高は8分07秒75だったが、今年は7分58秒28。8分10秒未満の選手数は昨年の4人に対し今年は6人である。
三浦自身も次のように話していた。
「東京五輪は必ずしもベストメンバーではありませんでした。今年は7分台が海外では(3試合)立て続けに出ています。記録や映像を見て世界の力をひしひしと感じました。国内だけで走っていてはとうてい追いつけません」
東京五輪金メダルのS.エル・バッカリ(26・モロッコ)が今季は7分58秒28、銀メダルのL.ギルマ(21・エチオピア)が7分58秒68。ダイヤモンドリーグでもエル・バッカリが2戦2勝、ギルマは3戦して優勝1回と2位2回と、2人は安定した強さを見せている。
昨年は代表入りできなかったが、前回の世界陸上ドーハ大会金メダルのC.キプルト(27・ケニア)も復調してきた。そもそも3000m障害はケニアが圧倒的な強さを見せてきた種目で、複数メダルや3人入賞は当たり前だった。東京五輪は銅メダルのB.キゲン(29・ケニア)1人しか入賞しなかったが、ケニア勢も巻き返してくるだろう。
東京五輪の三浦はこうした世界の状況を気にしないで、思い切りぶつかって行った。その結果が7位入賞だったが、今年は世界の強さも意識した中で走ることになる。
1500mの日本歴代2位と5000m東京五輪代表から勝利

しかし専門外の種目でも、三浦は常識を覆し続けている。まずは4月9日の金栗記念1500mに3分36秒59で優勝した。このタイムは日本歴代2位で、3000m障害選手としてはけた違いにレベルが高い。これまで3000m障害で8分30秒以内の選手の1500mは、3分40秒94が最速タイムだった。
同29日の織田記念5000mでは、この種目の東京五輪代表に競り勝った。そして関東インカレ5000mではラスト1周が54秒台後半と、これも世界レベルのスピードを見せた。
「東京五輪に出場したことで海外に視野を向けられるようになって、強化すべき点が見えてきました。それで1500mで瞬発的なスピードを、5000mでスピード持久力を高めてきた。金栗記念と織田記念である程度は形になったかな、と思います」
しかし6月30日のダイヤモンドリーグ・ストックホルム大会の3000mでは、7分47秒98の自己新、日本歴代4位の好タイムで走ったが10位という結果だった。長門監督によれば1700m付近で先頭集団から後れ、フィニッシュでは優勝した選手に約18秒差をつけられた。単日開催では世界最高レベルの大会がダイヤモンドリーグである。世界との力の差を再認識した。
ストックホルムで対戦した相手は3000m障害の選手たちではなかったが、エル・バッカリは3分31秒台、ギルマは3分33秒台と1500mも三浦より数段速い。下位入賞選手たちの中にはそこまでフラット種目のタイムが良くない選手もいるが、メダリストクラスになると1500mや5000mの日本記録を上回ってくる。
三浦は「改めて世界の壁を感じました。世界陸上に向けて、これなら行ける、という手応えはあまりなかったです」と認めざるを得なかった。