4年半前、日本のアニメ界を支えたクリエーターや、入社したばかりの若手社員の未来を突如として奪った放火殺人事件。社員36人を殺害、32人を負傷させた罪に問わる青葉真司被告への判決が25日に言い渡されます。今回の裁判では、殺人事件では極めて異例ともいえる「被害者の匿名」が認められました。実名での審理を希望した遺族と、匿名での審理を希望した遺族に、それぞれの思いを取材しました。

被害者の“匿名審理” 過去には約5万7000人に適用

小川彩佳キャスター:
取材をした國土さんは、一連の裁判の取材を通してどんなことを感じていますか。

MBS 國土愛珠 記者:
複数のご遺族の方が匿名を希望されてるということはわかってたんですが、半数以上の19人だと明らかになったのは初公判のときが初めてでした。

実名の方、匿名の方と分けることなく、審理は進んでいるんですが、私もこれまで他の裁判を取材したことがありますけど、(実名・匿名が)一緒に審理されるというのは初めてだったので、少しこれまでとは違った印象を受けました。

藤森祥平キャスター:
このところ事件や裁判の度に、被害者の実名を報じるべきか、出すか出さないかという議論があります。私たちも日々向き合っているテーマなんですが、ぜひ皆さんと考えていきたいと思います。

今回の裁判では、刑事訴訟法の制度(被害者特定事項秘匿制度・刑事訴訟法290条の2)に基づいて、京都地裁が▼被害者特定につながる住所や氏名などの情報を明かさず審議しています。つまり、ご遺族が希望した犠牲者については、匿名で扱うということを認めました。

この制度は主に、▼性被害者の保護を念頭に置いたものです。今回のような▼被害者や遺族の名誉、または社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められるケースにも適用できるものなんです。2008年~2022年の間では、約5万7000人の被害者に適用されているということです。

この中には、2016年の神奈川県相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」で入所者の19人の方が殺害された事件や、2017年の神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が発見された事件も含まれています。

小川キャスター:
そして今回の京都アニメーション事件の裁判では、國土さんから説明がありましたように、当初から実名・匿名が入り交じる形で審理が進んでいるわけですけれども、この裁判を通して、匿名を望んだご遺族からはどんな声が聞かれましたか?

MBS 國土愛珠 記者:
裁判という公共の場で、実名が出ることによって、我々の報道だけではなく、さらにはSNSでの2次被害や、知って欲しくない人に知られてしまう。他にも事実と異なる内容が拡散されることで、誤った情報がネットでデジタルタトゥーとして残ってしまうことを懸念する声も聞かれます。