4年半前、日本のアニメ界を支えたクリエーターや、入社したばかりの若手社員の未来を突如として奪った放火殺人事件。社員36人を殺害、32人を負傷させた罪に問わる青葉真司被告への判決が25日に言い渡されます。今回の裁判では、殺人事件では極めて異例ともいえる「被害者の匿名」が認められました。実名での審理を希望した遺族と、匿名での審理を希望した遺族に、それぞれの思いを取材しました。

「1の2」「1の6」 被告にも名前が伝わらない匿名審理

平成以降、最悪となる犠牲者を出した未曾有の放火殺人事件。

2023年9月の初公判を前に、妻の寺脇(池田)晶子さんを亡くした夫は、心境をこう話していました。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「やっと始まった。きちっと見て、聞いていかなあかんなという気持ち」

寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)は、「涼宮ハルヒの憂鬱」や「響け!ユーフォニアム」など、京都アニメーションの代表作でキャラクターデザインなどを担当

有名作品を数多く手がける一方で、母親として、子育てと仕事を両立していました。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「晶子、かわいそうだなって。もっと絵を描きたかっただろうし」

この裁判では、犠牲となった36人のうち19人の遺族らが匿名を希望したため、「匿名審理」が認められました。

通常、「匿名審理」は被害者保護の観点から、性犯罪事件などが主に想定されているため、殺人事件では極めて異例な対応といえます。

寺脇さんは迷わず「実名」での審理を選びました。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「実名にして、つらい思いをするより、仕事頑張っていましたよ、母親としても頑張っていたよっていうことを、みんなに知ってほしい」

しかし、法廷では晶子さんの名前が呼ばれることで、つらい場面もあったといいます。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「『寺脇晶子』の名前だけとっても、晶子との思い出がぶわーっと思い出される。いいことしか思い出されない。ものすごくそれがつらい」

匿名を選択した被害者は、法廷では「1の2」、「1の6」などと名前が番号に置き換えられるため、青葉真司被告にも名前が伝わることはありません。

匿名での審理を選んだ遺族の思いは…

『1の16』の犠牲者の父親(法廷での意見陳述)
「私は1の16の被害者の父です。この裁判で名前の秘匿許可を頂いたことについて、こうした選択肢を与えていただいたことを裁判所に感謝いたします」

息子が犠牲になった父親
「息子の名前が裁判で数字で呼ばれることについては、なんとも思わない。それは我々が望んだことだから」

ある遺族の弁護士は、「世間から好奇の目で見られたくない」という思いで匿名を選んだとも話しました。