■「最大の失敗」とは?
ボムベイス氏はこのほかにも、元総理が演説している間は周囲の道路で車両や人の交通は決して許可してはならない、演説の間は救急車を待機させておくべきだった、などの点も指摘した。そのうえで、全体を通して今回の警備態勢について「最大の失敗」としたのは、上述の「バリア」の範囲だった。

米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「私は、犯人が元総理から3メートル以内に近づくことができたという事実を考えています。これが“最大の失敗”でしょう。手製の原始的な武器を持った男を決して近づけるべきではなかったのです。もし男と元総理との距離をもう少し広くしておけば、そんなに遠くからは攻撃することはできなかったでしょうから、命を救うことができたはずです」
■日本でも「手製の銃器」に備えるべき
最後にボムベイス氏は、厳しく銃が規制される日本でも今後、「手製の銃器」による犯罪に備えるよう警鐘を鳴らした。
米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「日本は犯罪率が非常に低い国です。アメリカでは犯罪率が非常に高く、銃器の脅威にも慣れています。今回の事件で使われたのは手製の銃器でしたが、最近は3Dプリンターを使って自宅で簡単に銃器を作ることができます。日本も今後、このような脅威に備えなければならないでしょう」
確かに、銃犯罪をめぐる状況は、米国と日本は比較にならないほど異なる。米国では、銃が原因で死亡した人は今年だけで自殺を除き1万601人。4人以上の死傷者が出た銃乱射事件は331件にのぼる。(銃犯罪データベース「GUNVIOLENCEARCHIVE」から。今年1月から7月11日まで)
米国では人口を超える4億丁の銃が流通しているとされるが、今回のような「手製の銃器」が問題となっている。「ゴーストガン=幽霊銃」と呼ばれているものだ。個人がオンラインで購入する部品や3Dプリンターで作る部品で銃器を製造できるようになっているという。製造業者が銃のレシーバーに刻印するシリアルナンバーがないために、実態を把握できないことから「幽霊」の名が付けられた。犯罪で使用されても購入者の追跡ができない匿名性がある。
今回の事件における警備体制の詳細な検証から、銃犯罪を前提に今後の要人警護に向けた教訓を得ることは肝要だ。また容疑者が、なぜ手製の銃器を製造できたのか、部品や製造方法の入手経路の解明も求められる。さらに容疑者の動機、なぜ安倍元総理に矛先が向かったのか、憤りの根源にも目を向けなければならないだろう。決して許されてはならない凶行。私たちは極めて重い課題を突きつけられた。
ニューヨーク支局長・萩原豊

















