「元総理の命を救うことができたと思う」
要人の命を守る、同じプロフェッショナルとして、無念さを感じたのだろうか。インタビュー中、彼は、何度か繰り返した。米ニューヨーク州にある民間警備会社「グローバル・スレット・ソリューションズ」のCEOケネス・ボムベイス氏は、クリントン、オバマ元大統領や副大統領時代のバイデン氏の警護にあたった経験がある。イラク戦争中、現地で警察活動にも従事したという。当時の写真が数多くオフィスに掲示されていた。


かつて銃による現職大統領の暗殺を経験した米国。その国の警護の専門家に、今回の警備についてどう考えるのかを訊いた。(なお、TBS/JNNが入手した今回の事件の映像と取材で得た情報から作成したCGを基に、ボムベイス氏が自らの意見を述べたものである)
米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「元総理に近づき、ゆっくりと武器を振り上げ、その武器で狙いを定めて撃つ。これは、そう簡単なことではありません。映画とは異なります。少しでも邪魔をすることができれば、1発目か2発目を発砲する機会を奪えば、元総理の命を救うことができたはずです」
■安倍元総理の演説場所

米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「我々は『サイト・セレクション』と呼びます。演説場所については、警備関係者が決定しません。聴衆に近づけるということから、しばしば政治的な理由で決められます。しかし安全上、かなり厳しい状況にもなり得ます」
米国でも、選挙活動の場所は、政治家サイドが主導して決めることが多いという。そのうえで、今回の安倍元総理の演説場所について、こう明言した。
米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「(事件が起きたのは)演説の場所が、悪い条件の場所だったからだと確信しています。今回の場所は、非常に小さなエリアです。私たちは、元総理の周りを囲む境界線を『バリア』(=障壁)と呼んでいます」
犯人を近づけない役割の「バリア」の範囲が、非常に小さかったと指摘する。安倍氏が演説を始めた直後の映像に山上徹也容疑者が映っている姿を見て、ボムベイス氏は「これは近すぎる。ここまでの接近は許してはいけない」と強調した。この後、山上容疑者は安倍氏におよそ3メートルの距離まで近づき、2発目を発砲している。
さらに、問題点を指摘した。
「しかも、非常に交通量の多い真ん中で、彼が話している間も車が通っているのです。これは非常に危険です。今回は犯人が歩いて元総理のすぐそばまで近づき、2発発砲しました。しかし、車で通りかかり、その場で停車して同じことをするのはと
ても簡単なことなのです」
■警護員の配置は?
ボムベイス氏は、まず、政治家に集まる聴衆のなかに、犯行に及ぶ人物が紛れ込んでいる可能性があることから、警備側は聴衆に向き合う前方を「最大の脅威」と考え、警護員を厚く配置することは当然だという。ただ、この場合、犯人は後方から近づけることになる。これこそ、警護の課題だという。
米・民間警備会社 ボムベイスCEO
「今回、ひとつ言えることは、警護員は(安倍元総理を囲む)『バリア』の外側にいるべきだったということです。そうすれば、もっと早く介入することができたはずです。警護員は後方を向いているべきで、犯人が近づき始めたらすぐに介入し、止めようとすることができたでしょう。そうする時間はあったのに、そうはならなかったのです」