なぜ滑走路に? 元管制官の指摘 “ナンバー1”の意味を取り違えた可能性

なぜ、事故は起きたのか。管制官と、2つの機体との「交信記録」を分析した。
衝突の4分半前、離着陸をコントロールする「タワー」の管制官が日航機にこう指示を出している。

管制(東京タワー)「JAL516、滑走路に進入を継続してください」
日航機(JAL516)「滑走路に進入を継続します」
さらに2分後…
日航機(JAL516)「着陸支障なし、JAL516」
実は海保機は、日航機に対する着陸許可の交信を聞いていなかった可能性がある。
このタイミングでは、海保機が無線を「タワー」の周波数に合わせておらず、地上走行を管制する別の周波数の無線を聞いていた可能性があるのだ。その後、海保機は、タワーの管制官にこう呼びかける。

海保機(JA722A)「タワー、C誘導路上です」
管制(東京タワー)
「東京タワー、こんばんは」
「(離陸の順番は)ナンバー1、滑走路停止位置まで地上走行してください」
海保機(JA722A)
「滑走路停止位置に向かいます。ナンバー1、ありがとう」
そう答えた海保機だったが、停止位置を越え、滑走路に進入してしまった。
なぜ、進入してしまったのか。
元管制官の田中秀和氏は、「ナンバー1」という言葉を海保機の機長が誤解した可能性を指摘する。「ナンバー1」とは本来、離陸の順番を示しているだけだという。

元管制官 田中秀和氏
「ナンバー1という言葉のみで『滑走路に入って良し』とするルールは世界のどこにもありません。任務が災害派遣であったこと、出発が遅れていたことで、何とか大事な任務を時間軸として取り戻したいという意識があったとすれば、それはハリーアップ症候群に合致すると思います」
焦ることで自分に都合の良い解釈をしてしまう、ハリーアップ症候群の可能性があったという。
その後、滑走路上で海保機は停止。衝突まで40秒間、とどまり続けたとみられるが管制官は気づかなかった。
管制官は国交省の聞き取りに対し、次のように話していると言う。

管制官(国交省の聴取に対し)
「ほかの航空機の調整などがあり、海保機に滑走路手前まで走行するよう指示を出した後、動きは意識していなかった」
国交省によると、タワーには誤進入を管制官に知らせるシステムが備えられているという。今回、このシステムは正常に作動していたものの、管制官が気付いていたかどうかは明らかにされていない。