元日の風物詩と言えば、群馬県を舞台に行われる「新年最初の日本一決定戦」ニューイヤー駅伝。熾烈な優勝争いに加え、箱根駅伝で活躍したスター選手たちのニューイヤーデビューが日本のお正月を熱く盛り上げる。2013年には箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた柏原竜二(富士通)、2015年には東京五輪マラソン6位入賞の大迫傑(当時日清食品グループ)、東洋大を箱根駅伝2度の総合優勝に導いた双子の設楽啓太(当時コニカミノルタ)・悠太(当時Honda)、駒沢大学のエース窪田忍(当時トヨタ自動車)がニューイヤーデビューを果たし注目された。
今大会も駒澤大学で学生駅伝3冠(出雲・全日本・箱根)に輝き、個人でも世界陸上に2年連続で出場している田澤廉(23、トヨタ自動車)、常勝・青山学院大学のエース近藤幸太郎(22、SGホールディングス)など箱根で活躍したルーキーたちの活躍が期待されている。そんな中、学生駅伝の道を選ばず高校卒業後実業団へ進んだ19歳がライバルのルーキーたちに闘志を燃やしている。
西脇工業高校卒業の長嶋幸宝(ながしま そなた)。2022年全国高校駅伝では、エース区間の1区でスタートから飛び出し、独走で区間賞を獲得。その際、かつて同じ兵庫県代表で2010年に1区区間賞を獲得した西池和人(須磨学園)を真似、投げキッスのパフォーマンスをして駅伝界隈で話題となった。
世代トップの実力を持つ長嶋だけに、当然大学からの勧誘もあった。それでも華々しい学生駅伝の道を捨て、実業団へ進むことを選んだ。
「高校1年までは箱根を走りたいという目標もあったが、高校2年の全国インターハイで4位に入ったときに“世界で活躍したい”という想いが強くなり、高校卒業後は実業団に入ることを決心した。実業団は学生駅伝で活躍したスター選手たちがいて、実業団に入れば高校卒業してすぐに日本のトップ選手たちとともに練習をしてレースで戦える。もちろん箱根駅伝は好きだし毎年見ているが、僕は走らなくていい」
17歳で世代日本トップの力に触れ、さらに強くなりたいという想いが実業団入りの覚悟を生んだ。
そんな長嶋が加入したのはニューイヤー駅伝歴代最多優勝を誇る旭化成。伝説の双子ランナー宗茂・猛兄弟や、谷口浩美、森下広一など世界の舞台で活躍するトップランナーを輩出してきた名門チームだ。部員総勢23人、ニューイヤー駅伝のメンバー争いは日本一過酷といっても過言ではない。
ルーキーイヤーの今年、ケガに苦しみ上半期は思うような結果を残すことができなかったが、ニューイヤー直前の12月2日に大きな結果を残した。毎年、箱根駅伝やニューイヤー駅伝でメンバー入りを果たすべく、各選手が白熱したレースを繰り広げる日体大競技会で、高卒1年目10000m日本歴代最高タイムとなる27分44秒86を記録し1着。ニューイヤー駅伝メンバー入りを果たし、1区に配置された。
「上半期は苦しい時期もあったが、自己ベストの結果を残すことができて嬉しかった。ニューイヤー駅伝では僕が一番若いと思うので、区間賞を獲って盛り上げたい。支えてくれた方たちに“ここまで来られたよ”と言えるような姿を見せたい」
名の幸宝(そなた)は、イタリア語で「鳴り響く」という意味の「ソナーレ」に由来。箱根を選ばなかった19歳が、新年に新時代の鐘を鳴り響かせる。