
初日の午後6時からの上映会は、女性や若者が多かった。女性の涙に遭遇したのもこのときだった。なぜか。
多くの観客に共感を呼んでいるのは、映画の主人公のひとり桃井希生さんだ。桃井さんは、安倍首相に「増税反対」と叫んだ瞬間、4~5人の警察官に囲まれ、肩や手をつかまれ強引に移動させられた。さらに女性警察官2人が1時間近くも付きまとってきた。「なんか飲む?ジュース買うよ」と桃井さんを子どものように扱い、見下すような警察官の態度が動画に記録されている。おかしいと思って上げた桃井さんの小さな声は、警察によって簡単に奪われてしまった。

大学生だった桃井さんは、小さいころから吃音があり、人間関係に悩み、生きる目標を失っていた。そんなとき出会ったのが社会問題をテーマにしたドキュメンタリー映画だった。スクリーンに映る、権力による暴力や社会の差別に立ち向かい、現状を変えようと声を上げる人たちの姿に心が震えた。「生きづらい世の中は変えられる」。そんな思いを強くした桃井さんは大学で障害者の介助ボランティアなどをして、自分なりの社会運動を模索していた。選挙の演説会場でヤジを飛ばしたのは、この時が初めてだった。
「声を上げた時は、世界で私だけおかしい人なのかなと不安だったのですが、『おかしいよね』と言ってくれる人も結構いるので心強い」