イスラエルとイスラム組織ハマスとの衝突によって世界がどちらを支持するか“立ち位置”を明らかにする中、プーチン大統領はいまだ沈黙を守っている。これまで国際的にはプーチン大統領とイスラエル・ネタニヤフ首相は親しい関係であると知られてきた。だが今回の衝突の後、プーチン氏とネタニヤフ氏が初めて電話会談を持ったのは9日も経ってから。
さらにその内容は、民間人が犠牲になっていることへの非難と、ガザ地区での人道に反した行動を控えるよう要請したと伝えられる。つまりどちらかといえばパレスチナ擁護のスタンスだ。実は今回の中東の衝突はロシアの国内問題と無関係ではないらしい。プーチン氏の難しい立場を読み解いた。
「プーチンは・・・、弾圧するためにどんな手段もいとわないだろう」
ロシア、プーチン大統領が親しいネタニヤフ首相との間を置いて、親パレスチナとも取れる立場を強調するのは西側への牽制だけではない事情があると専門家は言う。

イギリス王立国際問題研究所 ティモシー・アッシュ氏
「ガザでのパレスチナ人の死の規模の大きさは明らかにイスラム世界に衝撃を与えていてイスラム世界の一部を過激化させ、イスラム国(IS)やアルカイダのような過激なテロ組織の極端な教義を広める可能性もある」
実はロシア国内には15~20%のイスラム教徒がいるといわれ、連邦を組織する小さな共和国には殆どがイスラム教徒の共和国の少なくない。そして、その人たちはウクライナ戦争で多くの犠牲を払ってきた。

イギリス王立国際問題研究所 ティモシー・アッシュ氏
「今も南部地域の人はロシアの人口の比率に比べ、この戦争によって多く犠牲になっている。サンクトペテルブルクやモスクワのような都市部では徴兵運動はあまり活発ではないが、南部の貧しい地域では徴兵は非常に積極的でとても激しい。そして不釣り合いな数の死傷者を出している。彼らはすでに非常に貧しく、連邦内の他の地域と比べてもはるかに貧しい。過去にもそういう地域で社会不安が急増したことがある。(中略)プーチンは国内で不満分子が過激な行動に出た場合弾圧するためにどんな手段もいとわないだろう。もし南部共和国のいくつかで分離主義運動が再開されるようなことがあればプーチンはそれを弾圧することは間違いない。残忍にね…。チェチェンで既に見たわけで、彼は非常に攻撃的に対処することに全くためらいはないだろう」
実際、ロシア南部のタゲスタン共和国では先月末、反イスラエルの大規模なデモがあり、一部が暴徒化し、60人が当局に拘束された。タゲスタンはイスラム教徒が94%を占め、ウクライナ戦争ではモスクワ州の2倍(人口比換算)に及ぶ戦死者を出している。
南部の貧しい地域に不満が鬱積していることの象徴的出来事だが、中でもこのタゲスタン共和国、いささか特別だと現地の取材経験がある石川一洋氏は言う。


元NHK モスクワ支局長 ジャーナリスト 石川一洋氏
「タゲスタンは多民族で統治が難しい。アヴァール人、ダルギン人、レズギ人…。いろんな民族が混ざって、しかも大体イスラム教徒…。さらにこの国は武勇の国なんです。男たるもの武道を学ばねば…。ロシアがオリンピックで柔道やレスリングで勝ちますよね。大体この共和国出身ですよ。我々の世代いうと前田日明とやってたヴォルク・ハンっていたでしょ、彼もタゲスタン出身ですよ。ソ連崩壊後、若い世代は敬虔なイスラム教徒になってきた。“タゲスタンの英雄”といわれる総合格闘家だったヌルマゴメドフという人がいるんですね。プーチンさんにも祝福されたりして…。彼が敬虔なイスラム教徒で、今回もパレスチナ支持を明確にしているんです。彼が何か言えば間違いなく90%以上が支持する。(中略)問題は、今回デモの人たちが空港になだれ込んだんですが、治安機関はほとんど防げなかったこと。無力化していて、防ぐ力がなかった」
そして、タゲスタンとプーチン大統領、因縁が強い。タゲスタン共和国の隣に位置するのが、あのチェチェン共和国だ。