■霧は必ず晴れるので慌てないこと

「最初に言いたいのは必ず磁石を持つということです。そして、霧が出た時は絶対その場を動いては駄目です。霧は必ず晴れるので、じっとしておくこと。慌ててパニックにならないようにして下さい。人間は本当に弱い動物だから、みんな動いたら駄目ということは頭ではわかっていても、実際その状況になると動揺していろいろ動いたりするものです。動いたために命を落とした遭難事故は枚挙にいとまがありません。私が実践しているのは、じっとしている時は何でもよいので大声で歌うことです。周りが何も見えなくなると精神状態がおかしくなるので、私の経験から言えば歌うことで、正気が維持でき、落ち着くことができます」

また、尾畠さんは、山に登る時は必ず消毒液や傷口の手当のため、消毒液やキズ縫合用の針や糸など、七つ道具を必ず持っています。これまで、皮膚が断裂した登山者に応急処置をしたことがあります。山登りに挑む人には体調管理はもちろん、決して無理をしないでほしい。山は逃げることはないと話してくれました。
キズ縫合用の針や糸など七つ道具が入った救助袋

■小さな子どもは五感の発達が未熟なので常にそばにいること!


―― 川や海でのキャンプでは何に気をつけますか?

「子どもが一緒のケースも多いと思いますが、十分気を付けて下さい。子どもは成長するにつれ、・目で見る・耳で聞く・鼻でにおう・口で食べる・手で触れてみることで五感が発達し、学習しながら知識を増やしていくものですが、その経験が乏しいため、例えば、キャンプ場近くの大人が敬遠するような狭くて、薄暗い山道でも怖いということを認識していません。それで、どんどん進んでいくんです。だから、大人は片時も子どものそばを離れてはいけませんし、必ず視界に入るようにして下さい。小さな子どもは予想もしない行動をとることが当たり前ということを忘れてはいけません」
尾畠さんの厚くて大きな手には救助した子どもたちの温もりが刻まれている

そして、川や海で泳いだり潜ったりする時に倒木や人工物には決して近寄ってはならないと自身の経験から話してくれました。若い頃、川を丸太を組んで堰止めた河川施設の中にいるウナギやナマズを取っていた時に隙間に頭を入れたら、つかえて出られなくなって、ぎりぎりのところで頭が抜けて助かった経験をしたということです。