「釈放は理論的にも可能だと」

静岡地方裁判所は、袴田さんの再審開始を決定。さらに、「これ以上拘置を継続することは耐えがたいほど正義に反する」として、死刑囚という立場だった袴田さんの釈放を決めたのです。
この時の裁判長が村山さんでした。裁判官といっても公務員。異例の決定に対する周囲からの意見はなかったのでしょうか。

<元静岡地方裁判所裁判長 村山浩昭さん>
周りからというのは一切ないですね。これはもう裁判所は独立ですので、事件を担当している裁判官の中で決めることですから。ただ、私の、その当時調べた限りでは、裁判所の決定によって、死刑になっている確定者を釈放するという前例はなかった。その点については議論をしたと。その結果、(袴田さんの釈放は)理論的にも可能だと
ようやく開いたかに見えた「再審の扉」。

しかし、検察側がこの決定に不服を申し立てる「抗告」をし、それを受けた東京高等裁判所は2018年、再審開始決定を取り消しました。

この決定に対して、弁護側も抗告。最高裁判所は議論が十分でないとして、東京高裁でもう一度、議論を尽くすよう差し戻しました。

そして、2023年3月、東京高裁は、村山さんと同じく再審開始の決定を示し、検察が抗告をしなかったため、再審開始が確定しました。
はじめの開始決定から実際に再審が始まるまでには、9年がかかりました。村山さんはこの「9年」という時間を痛烈な言葉で非難しました。