“影武者”の可能性を結論付けたAI分析

『報道1930』が5月22日の放送で、AIによる顔認証システムを開発する民間企業に委託して、「影武者ではないか」との指摘のある映像・写真について、目、鼻、口の形や輪郭など500以上の特徴を解析。さらに6月12日の放送では、歩き方と声紋についてもそれぞれの専門企業に鑑定を依頼したところ、AIの解析ではいずれも本人との一致率が低いという驚くべき結果が出た。

この放送内容が10月19日に英大衆紙『デイリー・メール』オンライン版に丸々掲載されると、『キーウ・ポスト』等のウクライナメディアにも転電され拡散。ロシアのペスコフ大統領報道官が複数回にわたってこの情報をわざわざ否定するに至った。
AIによる分析は“影武者”が存在すると断定したわけではないが、ソロヴェイ氏らの主張を勢いづけたことは確かなようだ。

ソロヴェイ氏らの狙いは「プーチン体制の転換」か

ソロヴェイ氏らが拡散する「影武者が大統領に成り代わる」という“シナリオ”を聞いた時に思い出したのは、ロシアのスムータ=大動乱時代(1598-1613)だ。イワン雷帝の死後ほどなく700年続いたリューリク朝が断絶し、次のロマノフ朝が創設されるまでの間、正統性がないのに“皇帝”を勝手に名乗ったりする者が次々と現れた。ロシアは無政府状態に陥り、モスクワはポーランドに占領された。
ちなみに冒頭で触れた11月4日の『民族統一の日』とは、まさにロシア民衆の義勇軍がポーランドからモスクワを解放した日とされる。

米国の政治専門サイト『ポリティコ』は、強い指導者を印象付けてきたプーチン氏に対し、病気説や死亡説を流すことで権力を失墜させようとする勢力がいると分析している。
プーチン氏は来年3月の大統領選に出馬すれば再選は確実とみられているが、もし「影武者説」「死亡説」を信じる世論が選挙前に形成されたらどうなるだろうか。プーチン体制の転換がウクライナ戦争終結への突破口にもなり得るだけに、こうした“怪”情報は今後も盛んに発信されることが予想される。

(執筆:TBSテレビ報道局解説委員 緒方誠)