夢へのステップ
そして、迎えた2016年第36回大会レース本番。思わぬアクシデントが発生した。
優勝候補筆頭だったマルセル・フグがスタートまもない2キロ地点で道路縁石に乗り上げ、クラッシュ。無念のリタイアとなった。池田さんが楽しみにしていた優勝インタビューでの通訳はお預けとなった。

翌年の2017年大会は台風で中止。生中継での通訳は、なかなか日の目を見ることはなかったが、障害者スポーツに情熱を注いできた彼女は確実に夢へのステップを踏んでいた。東京パラリンピックの組織委員会スタッフに採用されたのだ。当時のことについて友人の紅葉谷さんは次のように振り返る。

紅葉谷昌代さん:
「裕佳子ちゃんはこれまでの経験を生かして東京オリパラにかかわりたいと。でも、そのためには東京に拠点を移さなくてはならなくて迷っていました。それでも夢を追いかけるために、大分市で開いていた英会話教室を知人に譲って、あらためて通訳専門の学校に通い直しました。そして、ようやくチャンスをつかんだのです」
迎えた2018年第38回大会。レースは競技場までもつれ込む大接戦となった。激戦を制したのは、前回大会でリタイアしたマルセル・フグ。フィニッシュ地点で真っ先に駆け付けたのが池田裕佳子さんだった。東京パラリンピックに向けて大きく羽ばたこうとしていた彼女だったが、原点である車いすマラソンへの思いは変わることはなかった。

そして、何度もイメージし、準備を重ねてきた車いすマラソンでの優勝インタビュー。わずか1分30秒という短い時間だったが、選手の思いを彼女の声で全国へと届けた。ただ、池田さんにとって、この大会が通訳として携わった最後の舞台となる。異変が起きたのはそれから間もなくのことだった。