時給2000円 老舗旅館が賃上げできたワケ

11月2日、岸田総理は会見で賃上げの必要性を強調した。

岸田文雄総理
「今年を上回る水準の賃上げを働きかけます」

大幅な賃上げを実現させた職場がある。兵庫県・有馬温泉にある創業94年の老舗旅館「欽山」。2022年、およそ60人いる正社員の給料を前年比10%から15%ほど引き上げた。募集中のパート・アルバイトの時給は朝の時間帯で2000円にのぼる。

宿泊業界全体を見ても賃上げは進んでいる。2022年末に行われた調査では、50.6%のホテル・旅館が2023年に賃金を「引き上げる予定」と回答した。(引き上げ予定:50.6% 変わらず:49.4%)

大幅な賃上げができたこの旅館。その秘策とは…

「欽山」若女将 小山暁子さん
「昨年4月にリニューアルをした。付加価値を上げることによってお客様単価を上げることができた」

元々40部屋あった客室を31部屋に。1部屋の面積を広くして付加価値を高め宿泊料金を値上げした。それでも今の時期はほとんどが予約で埋まる。サービスの質を高めた一方、部屋の数を減らしたことで客室係の人数を抑えることができたという。さらに…

「欽山」若女将 小山暁子さん
「休館日が決まっていて、今月は日月を休みにしています。電気代や水道代もカットできますし、年中無休にすると当日に入るお客様のための新規対応もしないといけない」

週に2日、稼働率が低い日を休みにすることでコストを削減。こうした工夫で得られた利益を従業員の賃上げに充てている。

入社14年目
「とても嬉しかった。給料が上がることで1人1人の仕事に対しての熱心さも変わる」

高卒で今年入社
「他のところは新卒の初任給が18万円ぐらい、ここは22万円からだった。(賃金を)上げてくれているのでありがたい」

旅館はリニューアルなどのため銀行から借り入れをして先行投資を行った。さらに、深刻な人手不足の中、賃上げをして良い人材を確保し、サービスを向上させることが必要だという。

「欽山」若女将 小山暁子さん
「若い人たちに続けてもらうためには、賃金や休みをしっかり確保しなければ(雇用が)続いていかないのではないか、いろんな思いがあって踏み切った」

「欽山」の取り組みは宿泊業界だけでなく、他の産業にも通じるものがあると経済の専門家は話す。

第一生命経済研究所 熊野英生首席エコノミスト
「高付加価値化、高い値段で買ってくれる商品を売る。旅館業はインバウンド、製造業は輸出というのができるし、他の企業にとっても新しい客を見つけていきながら高付加価値の製品を売っていくと。(欽山のような)旅館業みたいな取り組みが積み重なっていくと日本全体が変わっていく。そういう波及効果を及ぼしていくことが課題」

一方で、なかなか賃上げができない業種も多い。世界と比べても日本の賃金はこの30年でほとんど上がっておらず、G7の中でも最下位だ。この世界との格差を突きつけられている地域がある。