■ロシアは“反西側諸国”で結束を広げられるか

ロシアは、西側諸国の分断を狙うだけではない。その一方で、仲間との“連携強化”にも余念がない。

西側諸国がウクライナ支援の結束を示す▼EU首脳会議(6月23日‐24日)や、▼G7サミット(6月26日‐28日)、▼NATO首脳会議(6月29日‐30日)を前に、プーチン大統領は中国、インド、ブラジル、南アフリカが参加するBRICS首脳会議(6月22日‐24日)で、関係国との経済の強固な繋がりを強調してみせた。

プーチン大統領(BRICSビジネスフォーラム6月22日):
「ロシア経済界とBRICS諸国の接触は活発化しています。インドのチェーン店のロシアへの出店や、ロシア市場で中国製の自動車や設備・機械のシェアを上げる交渉も行われています。これにともないBRICS諸国におけるロシアの存在感も拡大しています。ロシアから中国・インドへ石油の供給量が著しく増加しています。また、BRICS諸国への肥料の大量輸出は農業での協力関係をよりダイナミックなものにし、インドや南アフリカにはロシアのIT企業が進出。ブラジルではロシアの衛星が既に4000万のブラジル人にテレビ放送を提供しています」

まるで西側による経済制裁など意に介さないかのようだ。BRICSの経済規模は世界のGDPの約24%を占め、人口も5カ国だけで30億人以上となる。実際のところロシアとの経済的な連携は強化されているのだろうか。

ロシアの主幹産業である石油の輸出による収入は、侵攻後の100日間で日本円にして13兆円にもなる。BRICSがロシアを支えている格好だ。中国への輸出は55%増(5月前年同月比)となり、中国にとってロシアは原油輸入国1位となった。インドへの輸出は侵攻前と比べて約9倍、ブラジルは2022年1月から4月までの対ロ貿易額が、輸出入ともに前年同期に比べて8割以上も増えている。さらに南アフリカのエネルギー大臣は「ロシアから原油を安く購入するべき」とも発言している。

こうしたなか、ロシアのマントゥロフ産業貿易相は5月、ロシア産ガス・石油を精製する合弁企業をBRICSで立ち上げることを提案した。やはり、ロシアとBRICSの繋がりは強化されているということなのだろうか。

朝日新聞 駒木論説委員:
「BRICS諸国はウクライナ侵攻に対する国連総会の非難決議を棄権した。そうした国々との関係を強化してロシアは生き残りをはかっていく。BRICS間での決済システムを作ろうという動きもあり、国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出されて国際取引が出来なくなるのではないかという懸念を、BRICSの枠組み、或いはそれを広げて、自分たちは生きていこうということだ。
聞くところでは5月16日にロシア外務省でラブロフ外相を議長とする幹部会を開き、制裁を課している48の国と地域との関係は根本的に見直し、それ以外の国との協力関係を深めていくと、そのための戦略を今後策定することを決めたという。かなり本気なのだと思う」

ロシアは制裁を課してくる非友好国との関係を見直すと同時に、友好的な仲間を増やすことにも躍起になっている。

中国・王毅外相はBRICS外相会談(5月19日)で、「中国はBRICS拡大プロセスを開始するように提案する」と表明している。実はこの外相会談にはBRICSの5か国以外にも9カ国が招待されていた。カザフスタン、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦、ナイジェリア、セネガル、インドネシア、タイ、そしてサウジアラビアだ。反西側の仲間を増やしていくことは果たして出来るのだろうか。

防衛省防衛研究所 兵頭政策研究部長:
「BRICSは今までも存在し、それなりに連携の強化は目指してきたと思う。だが、この5か国はどこまで政治的経済的に中国やロシアを含めて結束をはかれるものなのか疑問だ。もともとBRICSというのはアメリカの証券会社が作った造語から始まって、ロシアが主導しながらこうした枠組みを作ってきたわけで、何か共通の価値観や利害を持ち合わせているものではない。今回のウクライナ侵攻というロシアが犯した状況をどこまで他の国々が共有できるのか。
インドはQUAD(自由、民主主義、法の支配などの価値を共有する日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国の枠組み)のメンバーでもあり、欧米諸国との一定の関係もある。従って今後BRICSという枠組みがどこまで結束できるのかは今後の動きを見ていかないと判断できないだろう」

西側も黙っている訳ではない。BRICSの5か国とBRICS外相会談に招待された9か国の中の5か国、インド、南アフリカ、アルゼンチン、セネガル、インドネシアをG7サミットに呼んでいるのだ。つまり、西側諸国と反西側諸国がそれぞれ仲間を取り合っているようにも見える。

明海大学 小谷教授:
「インドはBRICSにもQUADにも入っている。QUADでのインドには、QUADが反中勢力にならないようにブレーキをかけている役割がある。一方、BRICSにおいても、反米だとか反西側にならないようにブレーキをかけているとみることもできる。
今回オブザーバーで呼ばれているインドネシアは今年のG20のホスト国で、プーチン大統領もゼレンスキー大統領も両方呼ぶと言っている。このインドネシアをどう取り込むかということをロシアもG7もかなり考えてるところだと思う」