■「これまで通りウクライナをアメリカが支援するのは難しい」
実際、ウクライナ支援への“揺らぎ”は、西側諸国に広まり始めている。ブリュッセルでは6月20日、労働者ら7万人がデモを行い、生活費の高騰への不満を訴えた。ロンドンでも18日、数千人がデモに参加し、物価高に耐えられないと声を挙げた。
欧米における物価高騰は深刻だ。5月の消費者物価指数の上昇率(前年同月比)は、ポーランドで13.9%になったのを筆頭に、イギリスで9.1%、ベルギーで9%、アメリカ8.6%、スペイン8.5%、ドイツ7.9%、フランスで5.2%と、いずれも激しいインフレに襲われている。こうした状況についてプーチン氏は9日、次のように語った。
プーチン大統領:
「西側諸国はロシアの石油や天然ガスなどに対する制裁を導入しようとしていますが、その結果価格が高騰しています。西側は“プーチン・インフレ”と呼んでいます。しかし、私たちは関係ありません。インフレは西側による制裁が招いた結果だ」
そうした揺さぶりが功をなしたのか、6月19日に行われたフランスの下院議会選挙では、国民の不満が露わとなった。マクロン氏が率いる▼与党連合は議席を100以上減らして過半数を割った(獲得議席245議席 前回比マイナス105議席)。一方、▼左派連合が50議席以上を増やし(131議席 プラス58議席)、▼極右政党の国民連合は10倍以上も議席を伸ばしたのだ(89議席 プラス81議席)。
世論の変化はフランスだけではない。アメリカでもバイデン大統領の支持率は就任以来過去最低の36%(ロイターイプソス調査22日)。5か月後に迫った中間選挙を前に「最も重要な問題」について米国民に聞くと、1位は「インフレ対策」(21%)、2位「経済対策」(19%)、3位「銃規制」(17%)。「ウクライナ問題」はなんと10位(1%)に過ぎなかった。
世論の反応が厳しいなか、アメリカはウクライナへの武器供与などの支援を続けていくことは出来るのだろうか。
明海大学 小谷哲男教授:
「侵攻が始まった直後はニュースもトップで扱っていたのでやや関心は高かったものの、もはやトップニュースではなくなっている。国民も当初は“プーチン・インフレ”というバイデン大統領の説明を信じていたが、今はバイデン大統領の政策の失敗、放漫財政がインフレの原因だと強く信じている。
(中略)侵攻が始まった当初は、立て続けにウクライナへの支援を決めてきた。分断が激しい今のアメリカにおいて、例外的に超党派で進められてきた。ただ5月に5兆円近いウクライナ支援を議会で決めたとき、共和党の中に反対する人たちが出てきた。国内向けにお金を使うべきという考え。
この5兆円に関しては2022年の10月までに使い切るということで成立したが、その後に関しては連邦議会で議論しなければいけない。ちょうど、中間選挙の直前となる。これまで以上にウクライナ支援に反対する世論が高まっていく可能性があるので、これまで通りにアメリカがウクライナ支援をし続けていくことが出来るのか、これは非常に難しいと思う」
防衛省防衛研究所 兵頭政策研究部長:
「民主国家の場合、インフレや経済問題などで国内での反発が高まると、すぐ内政の問題になって選挙に影響が出てくる。程度の差はあれ、日本も含めて民主国家の中で不満の声が高まりつつある。そこにプーチンも逆制裁を通じた揺さぶりを掛けたりしながら、停戦に向けた国際世論を作り上げようとしているのではないか」
朝日新聞 駒木論説委員:
「物価高だけでなく、食糧問題もロシアは西側の分断に使おうとしている。ロシアの政権の高官からは、食糧問題が深刻化すれば、アフリカや中東から難民が欧州にまた向かうだろうとの発言が出ている。そうなったときに欧州は耐えられるだろうかと。それを考えると、ロシアが食糧問題に真面目に取り組むというモチベ―ションは感じられない。寧ろそれによって世の中が不安定化して欧州が分断し、ポピュリスト的な勢力が伸びることをロシアは期待しているのではないか」