世界遺産になっている「死者の都」はギザだけではありません。ギザから南に30キロのところにあるサッカラも多数の墓地遺跡があり、近年新発見が相次いでいる考古学のホットスポットです。
このサッカラで2019年に発見された地下墓地を、番組は今年、特別に超高精細の8Kカメラで撮影したのですが、約4300年前に描かれた壁画があまりにも鮮明でビックリしました。地下で密封され空気に触れることが少なかったため、古代の色彩が鮮やかに残っていたのです。この地下墓地に埋葬されていたのは「クウィ」という名前の貴族。その名も壁画に、古代エジプトの文字・ヒエログリフで描かれていました。

壁画には、死後の世界でも食欲が満たされるようにさまざまな食物が描かれていました。当時のパンなども描かれていて、古代エジプト人がどんな物を食べていたのか分かる貴重な資料です。またナイル川を船で渡るクウィの姿も描かれていて、やはりナイル川が重要な存在だったことを示しています。さらにクウィのミイラもここで発見され、実に4000年以上前から遺体をミイラにしていたことが裏付けられました。
「迷ったら、二度と出られないのでは」
このクウィの地下墓地は立ち入り禁止のエリアにあり、もちろん公開はされていません。このように発掘進行中で非公開のものが多いサッカラですが、一般人でも見ることが出来るのが「エジプト最古のピラミッド」のジェセル王のピラミッドです。約4650年前に築かれた階段状の巨大なピラミッドで、2020年にその内部が公開されました。一番の見どころはジェセル王の棺で、世界最大の石棺といわれます。ただ内部は全長6キロにもなる地下通路が迷路のように張り巡らされているため、撮影した番組ディレクターは「迷ったら、二度と出られないのでは」と怖くなったそうです。

このジェセル王の墓地は、ピラミッドだけでなく大きな広場や神殿などもセットになった、やはりピラミッド複合体です。カアという神のための地下墓所もあって撮影したのですが、その壁面にはジェセル王の浮き彫りがあり、腕を振って走る姿が描かれていました。古代エジプトでは、力強く走ることが王としての力を誇示する行為だったそうで、ピラミッドの前にある広場をジェセル王が走ったと考えられています。つまり、ピラミッドは死後だけでなく、生前の王の権力を見せつける場でもあったのです。
このように見どころのあるサッカラ。古代エジプトの遺跡を巡るのなら、ギザだけでなくサッカラまで足を伸ばしてみることをお勧めします。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太