今月26日に行われるプロ野球ドラフト会議。注目候補の1人が、最速153キロを誇る星槎道都大の左腕、滝田一希(21)だ。

力強い速球に、チェンジアップなどの変化球を織り交ぜ三振を量産する本格派で、今年5月に視察に訪れた地元・北海道日本ハムファイターズの稲葉篤紀GMも「左で150キロ投げられる投手は貴重。ドラフトの上位に入るのでは」と高く評価した逸材だ。

去年8月に行われたプロとアマチュアのチームが集まる「タンチョウリーグ」では福岡ソフトバンクホークスの3軍と対戦。プロ相手に6回まで投げ2安打無失点、10奪三振と圧巻のピッチングを見せ、一躍ドラフトの注目選手に名乗りをあげた。

「僕はここまで来られるような選手ではなかった。亡くなった母のおかげです」

この試合のわずか3か月前、滝田は最愛の母・美智子さんを心筋梗塞で亡くしていた。

北海道の黒松内町で、6人兄弟の5番目として生まれた滝田。6歳の頃に両親が離婚し、女手ひとつで母・美智子さんに育てられた。

「子どもの頃から好きなことしかやらない性格で、兄弟の中で一番の問題児だった」と当時を振り返る。美智子さんには「自分のことがきちんとできないなら、野球はやらせない」といつも怒られていたという。

滝田選手

高校卒業後は就職する予定だったが、3年の夏、星槎道都大の二宮至監督(元DeNA1軍コーチ、2軍監督)の目に留まり大学進学を勧められる。しかし当時、美智子さんは猛反対。姉の優衣さんによると、金銭的な問題以上に、滝田が大学に行ってチームに迷惑をかけるのではという不安が一番の理由。美智子さんは滝田について「だらしない部分が多いので、親の近くにいてほしい」という気持ちがあったという。滝田は「ちゃんとするので野球をやらせてほしい」と説得を重ね、美智子さんもようやく認めてくれた。

大学3年の春、滝田は札幌六大学野球リーグの初戦で初勝利。「これから活躍する姿を見てもらいたい」そんな矢先の別れだった。

「何の恩返しもできていなかったので、悔しい思いでいっぱいでした」

大切な人を失った悲しみから、野球を辞めることも考えたというが、滝田を奮い立たせたのは、美智子さんへの感謝の気持ち。当初は進学に反対していた母が、自分の活躍を周囲に自慢していたことも亡くなってから知ったという。

「母の死が人生の分岐点。僕は野球しかできないので、プロになって母に恩返しをしたいです」

滝田は現在、大学の学費や遠征費を、奨学金に加えきょうだいからの援助でまかなっている。その負担を少しでも減らしたいと、今年1月からは大学からほど近い日本ハムファイターズの本拠地、エスコンフィールドで清掃の深夜アルバイトを始めた。

球団職員が使用するトイレ掃除などが主な仕事。マウンドはもちろん、グラウンドに入ったこともなく、「バイト先や球団の職員は、自分がドラフト候補だということを知らない」と話す。

このマウンドでいつか投げる日を夢見て。注目のドラフト会議は、今月26日に行われる。

■滝田一希(たきた かずき)
2001年12月28日生まれ 183センチ 80キロ 左投左打 寿都高~星槎道都大 全校生徒80人ほどの寿都高校出身で、3年間支部大会敗退と甲子園出場はなし。星槎道都大2022年の「タンチョウリーグ」で福岡ソフトバンクホークスの3軍相手に6回2安打10奪三振0失点の好投。一躍プロ注目候補に躍り出た。公式戦は通算17試合、8勝(完投1、完封1)2敗、68回2/3、防御率2.476。