「赤ちゃんポスト」医師が証言

証言台に立った2人目の医師は、熊本の慈恵病院理事長で産婦人科医の蓮田健医師。乳児を匿名で引き取る、いわゆる「赤ちゃんポスト」を設置した人物で、2021年には身元を明かさず出産できる「内密出産」を国内で初めて手掛けた。

慈恵病院理事長 蓮田健医師

「ポストで引き取った乳児は、ほとんど孤立出産で、医療関係者のいない場所、車内や家、トイレでの出産だ」

蓮田医師が「孤立出産」することとなった、女性の実情を語る。

「出産時の出血などで、200人に1人は輸血が必要になる。処置できない状態での出産は、母子にとって危険なこと」

事件当日、大量出血したというA女被告(当時)。当時の診察記録などから、かなりの貧血で意識障害が発生していた可能性があると推察した。

また「孤立出産」に追い込まれる状況も説明した。

「普通ではない親子関係などが背景にある。相談できないどころか見放される、あるいは縁を切られる…。居場所が無くなると、彼女たちは本気で思っている。ひとりで産むしかないと考える。ポストに赤ちゃんを預けに来る女性のうち、8割くらいに何らかの発達障がいや知的障がいの傾向が見られる」

正常ではない家庭環境や、本人の障がいなどが複雑に絡み合った結果のひとつが「孤立出産」なのだと蓮田医師は述べる。

「新生児の殺害ほど完全犯罪が成立するものはないと思う。誰も存在を知らない訳だし、相手は抵抗する力もない訳だし…普通は隠し通せるだろうと思う。それが見つかってしまうというのは、知的なものが影響している。行き当たりばったり感が強いように思う」