「どうしようと考えているうちに産まれた」
「質問を変えますね。妊娠したと気付きましたよね。なぜ森さんに相談できなかったのか、説明できますか?」
「……言葉が出てこない」
「きょうだいに相談できなかったの?」
「普段から話すことがなく、相談できなかった」

「中絶は考えなかったの?」
「お金がなかった」
「消費者金融から借りるとか、用意はできなかったの?」
「(沈黙)」
「言葉にならない?」
「はい」
弁護士は、少し考えるそぶりを見せたあと、質問を続けた。
「お腹がだんだん大きくなってくる。どうしようと思った?」
「どうしよう、どうしようと考えているうちに産まれた」
「どこで産まれましたか?」
「トイレで…」
「どこの?」
「自宅の…」
「なぜ、トイレで出産したの?」
「(沈黙)」
うまく答えられないA女被告(当時)。弁護士は質問を変える。
「『産まれそう』となりますよね? 頷いているけど、それは『はい』ってことでいいですか?」
「その時はどこにいましたか」
「自分の部屋」
「調書には『アルバイト先の飲食店でお腹が痛くなり』とありますが」
「本当に産まれそうになったのは家」
「なぜトイレで? 自分の部屋ではだめだったんですか?」
「(沈黙)」