“哲学的ゾンビを倒さねばならない”という妄想

1審判決によりますと、被告の男性(32歳)は2017年7月、神戸市北区の自宅で、祖父母(いずれも当時83歳)を金属バットで殴ったり文化包丁で刺したりして殺害したほか、自宅近くに住む女性(当時79歳)も文化包丁で刺し殺害。母親と近隣女性の2人にも重傷を負わせました。

この事件では、被告の犯行が「自分と元同級生の女性以外の人間は、姿は人間だが自我や感情がない存在『哲学的ゾンビ』であり、女性と結婚するためには『哲学的ゾンビ』を倒さなければならない」という内容の妄想・幻聴に拠るものだったという点は認定されていて、その影響がどの程度だったかが争点となっています。

1審で検察側は、「『嫌や』『信じるで、信じるで』と声に出すなど、被告には犯行をためらった瞬間もあることなどから、殺傷した相手が哲学的ゾンビだと確信まではしておらず(本当の)人である可能性を認識していた」などと主張。『心神耗弱(善悪を判断し行動をコントロールする能力)が著しく低下していたがゼロではない状態』だったとして、無期懲役を求刑しました。

一方で弁護側は、被告は妄想・幻聴の圧倒的な支配下で犯行に及んだのであり、『心神喪失=善悪を判断し行動をコントロールする能力が完全に失われた状態』だった疑いがあるとして、無罪を主張しました。

日本の刑法では「心神喪失者の行為は罰しない」と定められています。