2011年6月、千葉県で起きた殺人事件で当時19歳だった長女を亡くした男性が、岩手県北上市にいます。事件から12年、男性はある重大な決断をしました。
「その年の夏休みに帰省して、成人式の晴れ着を用意しようとしていました。楽しみにしていた晴れ着を着させてあげれなかっただけではなく、晴れ着代が私が最初に入るであろう、仏壇に代わってしまいました。こんな悲しいことはありませんでした」


今年8月、盛岡大学附属高校で行われた講演会です。穏やかな口調でマイクを握ったのは、北上市に住む菊池憲光さん(63)。岩手県内に住む「犯罪被害者遺族」の1人です。
2011年6月、菊池さんの長女で当時大学生だった果奈(かな)さんは、住んでいた千葉県内のアパートに侵入した男にキャッシュカードを奪われた上連れ去られ、その後、殺害されました。
男は強盗殺人などの罪で2015年に無期懲役が確定しました。
(菊池憲光さん)
「冷たく氷のような部屋。そこに横たわっていたのは、まぎれもない、冷たくなってしまった私の非常に大切な娘でした。言葉になりませんでした。立っているのも大変だったことを、今でも覚えています」
二人姉妹の長女だった果奈さんは、幼い頃から明るく優しい性格でした。事件当時、果奈さんが使っていた手帳には、スケジュールが細かに記され、事件から10日後には友達とテーマパークに行く予定もありました。
しかし、それが叶うことはありませんでした。

(菊池憲光さん 今年1月・盛岡少年刑務所での講演)
「どこかで娘を探している自分がいます。でも探しても娘はもうどこにもいないんです。あの子が亡くなってから12年になります。悲しみは事件当時と何も変わらず、守ってあげられなかった娘には今はただ手を合わせることしかできません」
事件から時間が経っても、菊池さんの悲しみが癒えることはありません。それでも気持ちを整理しながら、3年ほど前から県内外で自身の経験を語る講演活動を行っています。
(菊池憲光さん)
「娘が亡くなったことによって、誰かを助けるじゃないけども、誰かの手助けに僕がなれればいいのかなっていうのがあって、今、こういう風な形(講演)を取らせて頂いているのかもしれないですね」
菊池さんは現在、北上市内で妻と2人で暮らしています。仏壇には果奈さんの遺骨も保管され、明るく笑いかける果奈さんの遺影が大切に飾られています。
12年間、同じ屋根の下「3人」で暮らしてきた菊池さん。今年、重大な決断をしました。