今年1月に発生した鳥インフルエンザで、全てのニワトリを失った愛媛県西条市の養鶏が再起に向けて動き始めました。
ニワトリの鳴き声が戻った鶏舎で経営者の男性が思うこととは。

(冨田泰広さん・冨田養鶏社長)
「やっと一歩目というか…帰ってきたな」
時より雨がぱらついた6月11日の朝。
西条市の養鶏場にトラックが到着しました。
約5か月ぶりにゲートをくぐるニワトリには、再起への希望が託されています。
鳥インフルエンザで突如13万8900羽のニワトリを失う
去年12月30日、西条市で愛媛県内初となる高病原性の鳥インフルエンザが発生。
隣接していた2つの養鶏場に感染が広がりました。

冨田泰広(とみた・やすひろ)さんの鶏舎でニワトリに異常が見つかったのは、最初の発生から5日後の1月4日。
養鶏場にいた約13万8900羽のニワトリは殺処分されました。
あの日からおよそ5か月。
冨田さんが異常に気づいた現場に、初めてカメラが入りました。

(冨田養鶏・冨田泰広さん)
「このあたりやね。この中に8羽入っているが、5羽まとまって死んでいた。愕然よね」
ニワトリが死んでいた場所には、今でも目印のテープが残っています。
(冨田さん)
「この半年は地獄やったね」
顧客の励ましを支えに5か月 再起へ動き出す
鳥インフルエンザの発生後、定期的に調査を続けてきた県は、6月6日、農場にウイルスが残っていないことを確認。
この結果を受け、冨田さんは養鶏場の再開に踏み切りました。
(記者)
「きょうは何羽入る?」
(冨田さん)
「1万8500羽。お隣の香川県から」
買い付けたのは生後120日程のひな1万8500羽。
暑さに弱いことから、気温が上がらないうちに鶏舎へ移します。

ニワトリを見つめる冨田さんにこみ上げてくるのは、支えてくれた人たちへの感謝の気持ちです。
(冨田さん)
「ひどい目にあったとき、うちの卵の客とか、取引先の人が支えてくれた。間近で言えばクラウドファンディングでも、見ず知らずのこんな田舎のタマゴ屋のおじさんに五百数万円。全国の人が出してくれた」
ひなの仕入れにかかった費用は約2000万円。
鳥インフルエンザの発生に伴う国からの手当金はまだ受け取っておらず、自己資金に加え、クラウドファンディングで資金を募り賄います。

仕入れたひなはかつての1割ほど。
それでも農場にニワトリの鳴き声が戻った喜びはひとしおです。
(冨田さん)
「懐かしい音っていうか…元に戻るにはまだここから1年半、2年はかかるがそれでもスタートが切れたな耳から入ってくるスタートですよね」

「こっちが時が止まったゾーン。これがたまご拾う機械半年近く放っているからほこりかぶってわや」
順調に進めば7月にも卵の生産が始まる見通しです。
タマゴを集める機械もこれから整備を始めます。
ただ、この5か月で変化したこともあります。
(冨田さん)
「エサが馬鹿みたいに高い。復活してもぬか喜びできない。3倍近くになっている」
コロナ禍に加え、ロシアによるウクライナ侵攻で、エサとなる穀物が値上がりしていました。

“不安はある”
それでも冨田さんには再起への思いを強くするだけの理由がありました。
(冨田泰広さん・冨田養鶏社長)
「会うたびにみんなが、『いつ復活する』『どこで卵勝ったらいい』と唯一無二みたいに思ってくれている。生活の一部みたいな形で評価されているから、エサが高いだのなんだの言って一歩踏み出すことを躊躇するんじゃなくて、そういう声に早く応えて、もう一回自分の立ち位置にもどっていくのが一つの答えだと思っている」