家計はおいてけぼり。減税措置はすべて企業対象

岸田総理は「今こそ、成長の成果である税収増などを国民に適切に還元する」と発言した。何を還元してくれるのか。減税措置という言葉も使っているが、中小企業などの賃上げを促す減税強化だということだ。他にも半導体や蓄電池など国内投資を支援する減税制度創設、知的財産から生じる所得に減税制度創設、そしてストックオプション自社株買いに減税措置充実などとなっている。つまり、みんな企業減税だ。

――今、とにかく家計支援をしなければいけないということが一番の目的であれば、給付金や所得税減税、場合によっては消費税の軽減税率を下げるなど、検討すべき項目はあると思うが。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

これから議論されることを期待していますが、今本当に困っているのは家計部門なので、その負担をできるだけ減らすための減税策、それも従来の給付ではなくて抜本的に支援になるようなものがなかなか項目として出てきていないというのが今回の対策の中身です。ここ数年避けてきた所得税、消費税の税制を変えるということを抜本的に議論すべきだと思います。そこをやるためには政治的なハードルが非常に高いので、なかなか話として出てきていないというのが今の岸田政権の課題なのではないでしょうか。

――食料が今大きな問題だ。8%の軽減税率を例えば1%下げたら、家計にもすごく役に立つ気もするが。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

税を変えるのは一番政治的ハードルが高くて、給付は多分ハードルが低いので、項目的には給付が出やすいのではないかなと思います。

――企業減税ばかりやっているが、本当に必要なのだろうか。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

企業の売上高経常利益は上がっています。価格転嫁もできていますし、かなり良い状況です。企業に対する支援を否定するわけではないのですが、政策のウエイトとして家計簿がもう少し潤うようなところにシフトさせなければいけないというのもこういう統計からも出てきています。

――企業によってばらつきはあるが、全体として見たときに、賃上げや投資の力は歴史的に見ると、今は一番ある時期だと。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

賃上げは年1回というところから結構問題も起こっていると思います。できるだけ賃上げの回数を増やすとか、来年に向けて前向きな賃上げの話が経営者から出てくるというのは非常に重要なポイントだと思います。

年収の壁は、106万円の壁は保険料を肩代わりする企業に、従業員1人当たり最大50万円の補助金が支給される。130万円の壁は年収が130万円を超えても連続2年までは扶養にとどまれるようになるという。

――結局のところ制度改正を先送りしてきたツケがあって、今回もとりあえずしのぐためにお金を出して2年後に抜本改正の議論をすると言っているが。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

ここ数年政治で繰り返されてきた、いろいろなことを決めるのだけど、延長で抜本的なことをしないという一つの例になってしまうのではないかなと思います。

――年収の壁を解決していくための究極の議論は?

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

税と社会保障の取り方が違うというのがおかしいのだと思います。税金は所得が1万円増えたら1万に対して税率をかけていくわけですが、保険料もあるところから急激に上がるのではなくて、所得が上がった分に対して率をかけていけば、こんな問題は発生しないので。

――106万円が107万円になったときに増えた1万円分の何%かを保険料にすれば、壁ができない。

ニッセイ基礎研究所 矢嶋康次氏:

そうです。そこを抜本的に変えなければいけないともうみんなわかっているので、なぜやらないんですかという話だと思います。

(BS-TBS『Bizスクエア』 9月30日放送より)