日本の成功体験

それでも日本には成功体験が残っている。ロンドン(2012年オリンピック)の時には、プレッシャーのかかる局面で正確なレシーブを上げ続ける佐野優子選手がいた。本当の勝負がかかった大事な時には、眞鍋監督が「背中から炎が見えた」と語った、絶対に決めてくれるエースの木村沙織選手がいた。そして誰よりも勝利への執念をみせる司令塔、メダルがかかった試合では、セッターにとって生命線ともいえる指に骨折を負いながらも、表情一つ変えずに正確なトスを供給し続ける竹下佳江選手がいた。

しかし彼女たちも一朝一夕にその域に達したわけではない。佐野選手は、当時は珍しかったリベロでの海外挑戦で、世界の強打を日常で経験することで精度の高い技術を身に着けた。10代のころから日の丸の重責を背負った木村選手は、幾度も悔し涙を流しながら頼れるエースへと成長曲線を描いた。竹下選手は、オリンピック予選敗退の責任を背負わされて、一度はバレーから離れる挫折を味わいながらも、復活して日本を28年ぶりのメダルに導いた。

来年のメンバー構成に「新戦力」

来年のメンバー構成について質問を受けた眞鍋監督は「今回の14人がメインになると思うが、どのポジションでも新戦力が出てきてほしい」と技術的にもメンタルの面でも新しい力が必要と答えている。

もちろん、男子の高橋藍選手が東京オリンピックの直前に彗星のように現れて日本バレーのレベルを一段引き上げた例もある。だが今回悔しさを味わった14人も、気持ちが変わって、技術を身に着けることで十分に“新戦力”になり得る。だからこそ、悔し涙とともに、選手たちが語った言葉を信じたい。

「個人個人が成長することで、絶対にパリオリンピックの切符をつかみたい。私たちの目標は、オリンピックに出ることでなく、金メダルをとること」

パリオリンピック残りの5枠は、来年の6月、VNL(バレーボールネーションズリーグ)の予選リーグが終了した時点での世界ランキングで決定する。眞鍋監督は「(世界ランキングに反映する)VNLは1試合1試合勝ちにこだわって少しでもポイントを挙げていく。まずはオリンピックの出場権獲得に全集中」と来年の戦い方を示唆した。

パリオリンピックへの準備期間は短くなるかもしれないが、どの試合も負けられない戦いは、逆に一人一人を進化させる。チームとして、個人としても、ぎりぎりの局面での戦いこそが成長を促す場になるからだ、悔しさがあるからこそ、チームは必ず成長する、挫折があるからこそ、選手はたくましくなって帰ってくる。オリンピックイヤーの来シーズン、火の鳥NIPPON、バレーボール女子日本代表が、不死鳥のように、よみがえることを期待したい。

(MBSスポーツ解説委員 宮前 徳弘)