カギは「心が動く」かどうか。3.5%ビールで新しいビールとの付き合い方を提供

マーケティングやブランド戦略というときに商品の機能的価値だけではなく、ストーリーや世界観を顧客に理解してもらうという流れが出てきている。松山社長が考えるマーケティング戦略を図に書いてもらった。

――真ん中はお客さん?

アサヒビール 松山一雄社長:
消費者です。お客様というときに、取引先も含めてどうしても定義が曖昧になるのですが、自分たちの商品を飲んでくれる消費者が真ん中にいないといけないと思っています。お客様から見たときに、アサヒビールという会社や、それぞれのブランドとのタッチポイント、接点はたくさんあって、我々は50か所ぐらいを定点で見ています。それぞれの接点でお客様の心が動くのか、動かないのかが勝負のわかれ目です。お客様の心が動いて態度変容して、飲みたくなって買っていただいてお客様になる、そういうことをずっと続けていくのがマーケティングであり経営であるという考えです。

――心が動くようにしていくことが大事なわけだ。

アサヒビール 松山一雄社長:
一貫性のないのが一番良くないと思います。広告ではすごくいいことを言っているのですが、私もそうですが、役員や社員の言動が悪かったらイメージが台無しですよね。そこも含めてマーケティング本部だけの仕事ではなくて、全社、全社員がブランディングをしていくのだということを今一生懸命やっています。

10月に酒税が変わる。ビール類の税額は3段階で統一されていく。10月にビールが350ml当たり約7円安くなり、第3のビールは約9円上がる。2026年にビール類の税額が最終的に統一される。アサヒビールが酒税改正に合わせて投入するのが、アルコール度数を3.5%に抑えた「スーパードライ ドライクリスタル」だ。

――この発売は何を狙っているのか。

アサヒビール 松山一雄社長:
日本のビールは私達のものも含めて、アルコール度数が大体5%前後のものが多くて、ピルスナータイプで似たようなものが、すごく多かったのです。実はこのビールは自分たちが飲みたいものとちょっとずれているという方が潜在的にいるというのがわかってきて、海外でも3.5から4%前半ぐらいのミッドストレングスと言われているビールがだいぶ伸びてきた。若い方や女性、お年寄り、逆に私達のようにたくさん飲む人も、ドライクリスタルという商品があると新しいビールとの付き合い方が始まるのではないかと。

――薄いのかと思ったが、しっかりドライの世界に入っている。

アサヒビール 松山一雄社長:
ありがとうございます。そこが実は技術的にとても難しくて。アルコール濃度を下げると飲みごたえがなくなるとか、スーパードライの辛口カーブという「飲みごたえがあってぱっと切れる」というのが、なかなか実現できなかったのです。開発に1年半ぐらい、研究所と工場が頑張ってくれました。

ビール類全体の市場規模を見ると、日本は少子高齢化で人口も減っているということで縮小している。

――こういう中で、元気を出していくためには何が必要なのか。

アサヒビール 松山一雄社長:
答えはないです。ただ、自分に置き換えて考えると、生ジョッキ缶をぱっと見たときに、面白いと理屈抜きに思った。直感的にとか情緒的に。日本のビールは本当に美味しいので、味をうまくしていくだけでは伸びないのだと思います。ビールを飲むことの楽しさとか、仲間と一緒に飲んで喜びを実感していただくことができれば、もっと市場は伸びるのではないかなという期待をしながら。

――そのときのカギは消費者の心が動くということなのか。

アサヒビール 松山一雄社長:
はい。それも説得して飲んでもらうのではなくて、思わず「うわ!いいな」とか「美味しそうだな」、「友達と一緒に飲んでみたいな」と思ってもらえるかどうかだと思います。

(BS-TBS『Bizスクエア』 9月23日放送より)