10月の酒税改正によってビールの税率が350ml1缶当たり7円程度下がる。この変化のときに、業界トップのアサヒビールはどう動くのか。マーケティングのプロの顔も持つ松山一雄社長に聞いた。
「生ジョッキ缶」「マルエフ」ヒットの極意。次はアルコール度数3.5%
記録的な猛暑や花火大会などイベントの復活も後押しし、8月のビール類の販売実績は2022年より5%増加した。

さらに追い風となるのが、10月1日からの酒税改正だ。ビールの税率は350ml当たり6.65円引き下げられる一方で、第三のビールの税率は、9.19円引き上げられ、発泡酒と同じとなる。価格差が縮まることで、発泡酒などからビールに回帰する動きが見込まれている。
このチャンスをつかもうというのが、2023年3月にアサヒビールの社長に就任した松山一雄氏だ。日用品の世界企業P&Gでマーケティングを担当し、2018年にアサヒビールに入社。マーケティング本部長として、2021年は生ジョッキ缶を発売し大ヒットさせ、22年はスーパードライ発売36年目にして、初のフルリニューアルを実施。見事V字回復を成し遂げている。そして、このほど酒税改正に合わせ、アルコール度数を3.5%に抑えた新商品を発売する。

――ずっと右肩下がりで来ていたものが、20年からV字型で復活。生ジョッキ缶はヒットした。

アサヒビール 松山一雄社長:
缶ビールは所詮缶ビールで、美味しいけれども、お店で飲む生ジョッキのビールには、かなわないというイメージがあると思います。それに対して、缶ビールなのにこれはまるでお店で飲む生ビールだよね、というような感覚が驚きとともに伝わったのかなと思っています。
――中身も変わらないのに泡が出るだけの新商品には、社内で「NO」が出たのではないか。
アサヒビール 松山一雄社長:
社内では相当賛否両論ありました。泡のコントロールは温度や振動にもよるので、お客様が100人開けられたときに、100通りの泡が出てしまうのです。今までのアサヒビールであれば、これは商品として完成していないので出すべきではないと。私は業界素人でしたので、これを見たときにものすごくわくわくしたんです。
――常に顧客がどう思うかということを中心に考えるべきだという信念があるのか。
アサヒビール 松山一雄社長:
真ん中は常に消費者、お客様だと思っています。メーカーなので、自社の商品が主語になったり、競合もあったりとか、そういうところから入ってしまいがちなのですが、結局飲んでくれているのはお客様なので、お客様がどう思うかだけを全ての意思決定や行動の基準にしていこうという単純な話ではあるのですが、5年前のアサヒビールはそれがあまりできていなかったと思います。
――作り手からすると、何か新しいこと、品質改善がないと新商品が出せないと思うのでは?
アサヒビール 松山一雄社長:
それは価値の中では、いわゆる機能価値だと思います。価値とは機能だけではなくて、情緒とか意味とかいろいろな価値があるので、今までどちらかというと物作りとして機能価値に非常に寄っていたのだと思うのですが、今は情緒なども含めて、全体的な世界観をお客様に提供しようと。

――その代表作がもう一つのヒット「マルエフ」だ。昔あったアサヒ生ビールを包みを変えて出した。CMでは味には触れていない。全体としての価値で売りたかったのか。
アサヒビール 松山一雄社長:
まずはそうです。コロナの真っ最中で、本当に大切なものが不要不急で切り捨てられていくというのが嫌でした。そのときに、ぬくもりや癒しで「これを飲んでいい気持ちになってね」というような世界観を何とか描けないかなと。味は同じなのですが、世界観は今の時代に合わせて新しいブランドとして出したいなと思いました。