「安倍外交だってそうだった」首脳外交へのこだわり
なぜ林氏を交代させたのか。
9月13日の記者会見で問われた岸田総理は次のように答えている。

岸田総理
「首脳外交というものは大変大きなウエートを占める。このように認識をしています。私も、長く外務大臣を務める中で、外交のありよう、そして外交における首脳外交の重要性、こういったことも痛感をいたしました。私自身、この首脳外交において大きな役割をこれからも果たしていきたいと思います。従来の林大臣も大変優秀な有能な大臣でありましたが、党内におけるこの有能な人材にも、それぞれこの力を発揮してもらうこうした体制を組むことも、より外交を前進させていく上でこれは意味があると考えています」
実は、政権発足してから間もない2021年11月にも、岸田総理は周囲に対して次のように語っている。
岸田総理(周囲に対し)
「外交は官邸主導でやる。安倍外交だってそうだった。外交は総理大臣がメッセージを出していくものだ」
第2次安倍内閣以降、4年8か月にわたり外務大臣を務めた岸田総理。そのときの経験から学んだのは「外交は最終的に総理大臣がやる」ということだったという。
外交は継続性が大事で、外務大臣も長く続けた方が国際舞台で有利。このように言われることが多いが、岸田総理自身は外務大臣を長く続けさせることよりも、派閥の別の人材に経験を積ませることのほうが重要だと考えたということになる。
実際、宏池会幹部によると、想定していた宏池会の閣僚枠は3。その内訳は再入閣・留任が1人、初入閣組が2人だった。もし林氏が留任すれば他の大臣経験者は入閣できない。派閥の新陳代謝を進めるため、そして、この組閣で岸田総理が目指した女性閣僚倍増のため、今回は上川氏を選んだ。
“身内でありライバル”の林氏
今回の交代劇にはもう一つの事情もある。
岸田総理が林氏を交代させないとみられていたのは、背景に両者の“微妙な関係”もあったからだ。
林氏は岸田総理より早く、2012年の自民党総裁選に出馬した。将来的に総理を目指すことを公言していて、2021年には参院議員から衆院議員への“鞍替え”も果たした。
「水正会」という、派閥を超えた会合を開いて自身の応援団を増やすなど、着々と総理を目指す上での環境整備をしていて、岸田総理からすれば“身内でありライバル”なのだ。
過去の自民党総裁の多くは、総裁になれば派閥を離れていたが、岸田総理は会長職にとどまっている。林氏を外務大臣に据えたのも、林氏が派閥に残ることで林氏の力が強くなりすぎることを警戒したのが理由の一つとされている。
つまり、林氏を外務大臣から外すのはライバル潰しどころか、将来の総理候補に力をつけさせることになりかねない。それでも岸田総理は林氏を派閥に戻した。ポイントは宏池会の現状にある。