なかなか大胆だな、と思いました。「慎重な学者」と見る向きもあった日銀の植田総裁が自ら発信に乗り出し、緩和修正を「織り込み済み」にする作業に着手したからです。
植田総裁は9月9日付の読売新聞の単独インタビューで、「物価上昇に確信が持てればマイナス金利解除も選択肢」とした上で、「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性もある」との認識を示したのです。
マイナス金利解除とその時期に言及
植田総裁のインタビューでの発言は、これまでと比べると、相当、踏み込んだものです。
マイナス金利の解除などの「利上げ」は「見通せる状況にはない」というのが、これまでの決まり文句でした。
それを、「マイナス金利解除後も物価目標の達成が可能だと判断すれば、(解除を)やる」と述べて、マイナス金利解除に自ら言及しました。
また、その時期について、「到底決め打ちできる段階にはない」としながらも、「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と、初めて具体的に言及したのです。
「年末まで」というのは、物価動向だけでなく、冬のボーナスの支給実績や、2024年の春闘に向けた労働組合側の要求が見えてくるからで、2024年度の賃上げの水準がある程度予想できると考えているのでしょう。
単独インタビューは「発信したい」時に受けるもの
こんな大事なことを特定のメディアへの単独インタビューで言うのか、と言いたくもなりますが、まさに単独インタビューだからこそ、言えたのでしょう。
日銀総裁ともなれば、常にほとんどすべてのメディアから、インタビューの申し込みがあるものです。
受ける側にすれば、言いたいことがある時に、最も適切と思うメディアを選べば良いわけですし、「聞かれたから答えた」という形で、発信できるのです。
植田総裁の記者会見は、長期金利の許容幅を1.0%にまで広げた7月28日の金融決定会合後が最後で、8月には記者会見のチャンスはありませんでした。
次は9月22日の決定会合後までセットされていません。この間の状況変化を踏まえると「今、発信しておいた方が良い」と考えたとみられます。
9月22日の記者会見で同じことをいきなり言ったのでは、市場にショックが走るリスクもあります。
事前に一部のメディアの取材から、じわじわと「織り込み済み」にした方が、リスクが少ないと考えたのでしょう。