世界陸上の代表選考を懸けた日本選手権(9~12日)の4日間で、田中希実(22・豊田自動織機)は800m、1500m、5000mに出場、5レースを走るという異例のスケジュールをこなした。1500mと5000mで代表を決めた田中をシドニー五輪金メダリストの高橋尚子キャスターが取材した。

最終日(12日)に行われた5000m決勝は、800mの決勝からわずか75分後という超ハードな日程だった。この種目は田中に加え、日本記録ホルダーの廣中璃梨佳(21・JP日本郵政G)ら5人が参加標準記録(15分10秒00)を突破していて、し烈な代表争いとなった。

女子5000m決勝

レースを観戦した高橋キャスターは「すごくスローペースでレースが展開されている。これから後半一気にペースが上がるところがくると思う」と予想した。

その予想通り、田中はラスト1周から驚異的なスパートを見せ、“田中の強さ”を象徴する走りとなった。

高橋キャスター
「強い、速い!800mをその前に走っているとは思えない。最後のスプリントは去年から1年間、集中して鍛えてきたところなので、彼女の考えている先に世界があるなと。世界と戦うレースを日本選手権でもしっかりイメージしてきたなと」


日本選手権5000m決勝のラストスパート

田中がここまでラストスパートにこだわり、磨き上げてきた理由は“世界と戦うため”だという。

高橋キャスター:
実は去年の東京五輪1500mで8位(3分59秒95)に入賞し、4分切りという快挙をおさめているんですね。ただ悔しい場面があるんです。ラスト1周で田中選手は先頭集団に残っているんですよね。金メダルのキピエゴン選手(28、ケニア)はラスト1周を59秒でまわっていて、8位の田中さんは65秒かかっているんです。その間に7人いるんですよね。だからこそ、この1年間ラストスパートに磨きをかけてきたわけです。

昨年の東京五輪5000m

そして今回の日本選手権では、5000mも1500mも(田中は)ラストの1周が61秒です。今回(日本選手権で)勝負をするだけだったらこれだけのスピードはいらなかったんですけれども、彼女が見据える先にやはり世界があるんですよね。
この1年間磨いてきたものがこの61秒の成果につながっているんですよ。